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よもやま話

更新2023.11.22

1000キロ先で旅愁を感じる。叶わぬ再会が故の「日田焼きそば」との出会い

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中込 健太郎

一か月と置かずにまたこの地を訪れることになるとは。6月に入り、九州の奥座敷、小京都、日田の街はすっかり初夏の気配がしました。久留米を訪れる用があり、しかも一泊を要するとなれば、少し前に取材で日田を訪れた際に泊めていただいた宿で今回もお世話になることに。

無理をしてでも出かけたほうがよい理由


久留米からは国道を一本。ゆっくりと走っても2時間はかからない距離。なるほど、これでは挨拶もせずに帰ってしまうという方が日田で知り合った皆さんに申し訳ないというもの。日田に向かうことは正解だと思いました。ただ、それでも急な訪問だったもので電話を掛けたら「ああ、残念!福岡にいます!もっと早く言ってくれたら……」など今回は知り合えた方と再会することはできず。かといって熊本や大分となるとまた100キロ単位で走る必要が。なかなかうまくいきませんな。でも新たな出会いもあり。出かけてみる。これだけで間違いなく出かけないよりは発見や気づいたりすること、想うことがあるもの。無理をしてでも出た方がいい、そんな風に思うわけです。



国道210号線を走り、宿にクルマを置いて、日田の街を歩く。三隈川のほとりの街日田の夜は早い。特に私が訪れた日曜日など、一番閑散とする時間。21時ともなれば、こちらでいう0時過ぎ。22時などになればこちらでいう夜中の2時のような感覚でしょうか。そんな街で22時まで開いているお店。煌々と光る日田焼きそば「想夫恋」の看板。

そういえば日田もおいしい焼きそばがあるので有名ですね。いわゆるB級グルメの類でしょうが、日田の地元の人と約束して街に出ればこういうものはむしろあまり食べないかもしれないし。叶わぬ再会が故の出会い、そんな風に言うこともできるこんなお店に目が留まったのも何かの縁。晩御飯はここで焼きそばを頂くことにしました。

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ちなみに大分にはこんな「大分発」のファミレスもあります




ジョイフルは大分県生まれのファミレス。私たちの感覚ではデ●―ズにとてもよく似た看板と思ってしまうが、九州をはじめ西日本を中心にかなりメジャーだ。メニューもリーズナブル、今でも24時間営業のお店も多い。ドリンクバーがコカ・コーラ系が幅を利かせ、サイゼリヤでさえサントリー系ではなくなってしまった今でもサントリー系であるなど、行く理由は実は多いファミレス。

味も妙に画一的なファミレスの味ではなくどこか懐かしい。想夫恋のはす向かいのような場所にも日田のジョイフルがある。地元の人曰く、ジョイフルで友達と勉強するとかは普通で、あまり遅くまでいると、友達のお母さんとかの店員さんに「もういい加減帰り!」と言われたりするのだそうだ。地元のコミュニティを奪うファミレスではなく、地元に根差し、共に歩むファミレスと言った感じのエピソードだ。

日田焼きそば「想夫恋」のたまらない味




想夫恋……名前がグッときますね。夫を思う妻の秘めたる恋心。調べると雅楽のでもこんな題名の曲があるそうな。想う人がいないのは、慣れたにせよ、まあ寂しいものですが、そんなことからすると想ってくれる人がいるというのはそれだけで幸せなのだろうな、と思ったりするのです。そして1000キロ余りのドライブで訪れた落ち着いたこの街で、名物の店舗の名前が「想夫恋」。正直今回の旅においてはちょっとしたジャブのようなマイルドな衝撃を覚えたのでした。


▲危ない、せっかく見つけたのにうかうかしているとまたラストオーダーを過ぎてしまう

22時までというこのお店、ラストオーダーは21時30分。入ったのが21時10分頃だったのであぶないところでした。(いざとなれば、実はご当地グルメなファミレス「ジョイフル」で済ませばいいとは思っておりましたが。)想夫恋焼がいわゆるその焼きそばです。大きな鉄板のあるオープンキッチンで休みなく作られる想夫恋焼。ソースのいい香りと鉄板の上で野菜や肉がいい音を立てて焼かれていきます。そばが入るとシンバルのような音を立てて、場面が変わるよう。見入って、聞き入っていたら注文を失念しかけて再び危ないところでした(汗)

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見よ!これが想夫恋焼




想夫恋焼は焼きそばであって焼きそばではない、といえるかもしれません。かなりこだわっている材料。そのキャラクターもそうですし、大きさ種類など「~のようなやつ」では許されないのです。こちらで自社ですべて揃えている具材を、受け継がれた方法で鉄板の上に載せていきます。そして麺を載せて焼いていくわけですが、ここで重要なことは、決して炒めているわけではないということ。曰くそれでは普通の焼きそば、だそうであります。時間がかかります。しかし、しっかりと時間をかけて火を入れれば、確かに麺のグルテンが持つ固有の甘みも存分に引き出すことができますし、麺や具を傷つける恐れがあるので炒めないのだそうです。

そして、かければ舞うように香り華やぐオリジナルソースで味付け。運ばれてくる前から美味しいことは明らかなその一品が、間もなく厨房で完成しようとしていたその時でした。日田の街を見下ろす高台の方から、呼ばれた気がしたのです。「忘れてないかい?何か。」サッポロビール九州日田工場のあるあたりから声がした、ような気がしたのです。遅滞なく餃子と一緒に生ビールを追加したことは言うまでもありません。


▲無敵の3点セットであります

バーベキューの時に締めによく焼きそばを食べますね。アレに近い風合いです。いわゆるよく食べるソース焼きそばよりもより香ばしく、しかし甘みもあるがしっかりスパイシーなソースと、存分な具の量、もっちりとした麺の弾力。そこに待つは天領日田の水で仕込まれたサッポロビール。一口食べてはジョッキに泡の輪っかが一つずつ増えていく。一歩ずつ歩み、旅の途中で腰を下ろして食べる味。一口食べ薦めるほどに、鮮度の証のビールの泡の輪が増えていくほどに、旅のすべてが私の中でアンダンテ。そのハーモニーが得も言われぬ満足感へと昇華していくのであります!そして小ぶりながら食べごたえのしっかりした密度の濃い餃子も頼んで正解でした。


▲さっぱりしたたれとからしでいただきます。これとビールで延々飲み明かせそうです

帰ってきてビックリ


帰って来て知ったことは、我が家からクルマで20分ほどのところになんとこの想夫恋の支店があることが判明。目下の懸案はそこに行くべきか行かないべきか、ということなのです。なんだか近くにあってはいけないものというものも、世の中にはあるとは思いませんか?なんでも手に入れようとする、なんでも実現させることをよしとする。人間の努力目標としては見上げたものだが、なんだか無粋になっているような気がして、その無粋の元凶は「憧れること」を禁じるかのようにすべてがリアライズすることのように思えてならないのです。

たかが焼きそばでこんなことをいうのはおかしいでしょうか?しかしされど焼きそば。想夫恋の本店で食べた焼きそば「想夫恋焼」は、また私の旅の思い出メモの日田の思い出として、書き足されたのでありました。



みなさんも旅先ではクルマをとっとと宿の駐車場に置いて、存分に旅先の街を散策されることをお勧めいたします。また来れる、しかしだからと言ってその前の出会いは2度とないのかもしれないのですから。

・日田焼きそば「想夫恋」
http://www.sofuren.com/

[ライター・画像/中込健太郎]

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