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テクノロジー

更新2017.05.26

三菱・スズキ両社の燃費不正問題、国の検査体制にも目を向けてみる

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海老原 昭

2016年5月、三菱自動車が燃費計測データに手を加える不正問題が明らかになったほか、スズキも国が定めた計測方法ではなかったと発表した。独フォルクスワーゲン社のディーゼルエンジン不正事件を笑えない不祥事だが、その背景にはメーカーに投げっぱなしであった国の検査体制にも大きな原因があると考えられる。



三菱自動車のケース


2016年4月に発覚した三菱自動車の不正検査体制の概要を説明すれば、本来燃費計測では、タイヤと路面の摩擦や空気抵抗などで生じる「走行抵抗」を「惰行法」という手法で計測することになっている。この走行抵抗をシャシーダイナモに入力して燃費を計測するわけだ。

惰行法は、一定速度で走行中の車両のギアをニュートラルにし、惰性で走っている車が減速にかかった時間を計測して抵抗値を図る手法だ。最低3回以上計測し、バラつきが大きい場合は回数を増やしていく。こうやって目的の速度域まで、10km/hずつ速度を上げ、何度も計測していく。

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▲JC08モードでも燃費測定はシャシーダイナモを利用して測定する。このときに指定する走行抵抗値が不正の対象となった。(国土交通省資料「燃費測定モードについて」より)

これに対し、三菱自動車では北米で採用されている「高速惰行法」を使って計測していた(厳密にはアメリカ方式とも多少異なる)。こちらは一定速度まで速度を上げてギアをニュートラルにするのは同じだが、1秒ごとに何km/h速度が落ちているかを測って抵抗値を計測する手法だ。高速惰行法のほうが、惰行法よりもシンプルで、計測回数も少ない。ただし高速域はいいが、低速域では若干数値がバラつく(3%程度)ため、三菱自動車では独自に補正をかけていたという。

ここまでは、不正のためではなく手抜き作業のために測定方法を変えていたという印象だが、実はこの体制が約25年続いていたというから呆れる。その間にリコール隠しなどで会社全体が傾き、ルールに則る必要性をどこよりも強く感じていなければならなかった三菱自動車だが、最初から遵法意識などなかったのである。

さらに悪いことに、新車開発時に上層部から課せられた燃費目標に到達できなかったことに焦った開発陣が、走行抵抗を少なめに修正して提出してしまった。この車両をOEM供給された日産自動車が改めて自社で計測してみたところ、計測値に5%〜15%もの差があることが発覚したのが、今回の事件が明るみになった要因となる。テストそのものの内容の不正に加え、テストの結果にも手を加え、二重の不正を行ったのである。

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スズキのケース


スズキについては、三菱自動車の問題が明らかになった後、スズキ側から自主的に発表があったもの。スズキは「屋外のテストコースでは海風が強く、防風壁などの設備が整っていない関係で、結果のばらつきが大きいため、風の影響を受けない室内でのテストの結果を積みあげて申請した」と説明し、正しい計測法との乖離は誤差の範囲内だったため、燃費を修正する必要はないとしている。なお、この計測法は2010年から、ジムニー、ジムニーシエラ、エスクード2.4を除く26車種で行われていたという。

実際、ネットでもスズキについては「カタログより実燃費がいい」などの擁護も行われており、燃費を偽装しようとした三菱自動車とは問題の質が違う、という声も多く見られるのだが、国が定めたルールを数年間破り続けていたという点ではまったく同じだ。海外向けの製品はきちんと測定していたそうだし、国内向けについても問題発覚を受けてテストコースを改修して計測し直したところ、カタログ値よりいい値が出たという報道もあったが、だから許されるという話でもない。結局のところ、違法行為だったことは認めなければならないだろう。

国は何を監督していたのか


三菱、スズキ、両社が行っていた不正については諸々事情もあっただろうが、社会に責任を持つ大会社の遵法意識がこのような低レベルにとどまっていては困ってしまう。それにしても不思議なのは「どうしてその不正が長年続いていたことがわからなかったのか」だろう。

自動車の燃費試験といえば、かつては10・15モードでの計測が実燃費と乖離していることが批判され、2011年に現在のJC08モードへと計測ルールが変わったわけだが、その時にはすでに両社の不正は行われていたことになる。検査内容の見直しの際に、どうして不正が看過されてしまったのか。その原因は国土交通省側にあるのではないだろうか。

衝突安全性試験などの写真を見ていると、自動車の検査は高価な車両を惜しげもなく破壊し、大掛かりな検査設備を使っておこなう、大変厳格なものに見える。ところが実態としては、検査の主体である国土交通省は走行抵抗の計測すら自分たちで行わず、メーカーに自主提出させた数値を入力して作業していたのだ。これではまるで、ドーピング検査の試料を自主提出させるようなものではないか。

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新車の認証審査や型式指定は国土交通省の外郭団体であるNALTEC(自動車技術総合機構)で行なわれているが、正しく運用されていたかが問われる。

そもそも、同じ車両であってもタイヤが変わったり、装備が異なれば転がり抵抗などは大きく変わるため、グレードによって走行抵抗も変わってくるはず。しかしカタログを見れば、2WDとAWD、あるいはミッションの違いで異なる燃費数値が与えられているケースはあっても、車重が変わらない場合はまとめて同じ燃費が表示されている場合が多い。これ自体がおかしな話なのだ。

検査官も定期的に部署が変わる公務員であり、必ずしも自動車の専門知識のある人員が配置されるわけではなく(それ自体が問題なのだが)、結果としてメーカーのいいなりになっているという側面はあるだろう。しかし、それをよしとしていては、いつまで経っても物事は改善しない。少なくとも今回の事件で、メーカーに有利すぎる検査環境は、時として日本メーカー全体の信頼性を損なうものだと理解できただろう。

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日本も国際標準の採用へ動き出す


こうした批判を反映してか、国土交通省は2018年度からの燃費測定について、国際標準である「WLTP」を採用する方針が明らかになった。

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▲以前から議論は進んでいたと思われるが、タイミングとしては予定より急な登場だったことがうかがわれる。(国土交通省資料「燃費試験におけるWLTPの導入について(案)」より)

WLTP(Worldwide harmonized Light vehicles Test Procedure)とは、国連において策定が進められている乗用車等の国際調和排出ガス・燃費試験法で、欧州やインドなど新興国でも採用に向けて議論が進んでいる規格だ。現在燃費や排出ガスの試験方法は国によりバラバラなため、自動車の輸入・輸出についてはその国に向けた試験をその都度行わねばならず、メーカー側にとって負担となっていた。10年ほど前までは、輸入車があまり積極的に排ガス規制や優・良燃費車といった認証を受けなかったのは、こうした試験のコストを嫌った結果だという。

WLTPでの試験の結果そのものは、JC08モードと大きな差は出ない(若干、低燃費車でJC08より低めの数値が出る傾向がある)というが、どの国でも同じモノサシで燃費や排出ガスの性能を比べられるというのは、ユーザーにとっては望ましいことだ。日本のメーカーにとっては日本が誇る低燃費技術のアピールが低コストで行えるようになり、海外メーカーにとっては日本市場に投入する際のコスト減につながる。それだけで輸入車の値段が下がるとは思えないが、導入時期の短縮などにはつながる可能性がある。

最大市場である米国や中国の動向が定かではないが、採用する市場が増えればやがて統一への流れになっていくだろう。ただし、どのような試験方法であれ、不正が厳しく取り締まられ、マジメにやっているメーカーが報われるような方向で運用されることを祈りたい。

[ライター・写真/海老原昭]

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