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テクノロジー

更新2017.05.26

テスラCEOすら認める天才ハッカーが、たった1人で作った自動運転車がいろんな意味でスゴイ

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海老原 昭

自動運転はあらゆる自動車メーカーが真剣に取組んでいる技術であり、米テスラモーターズのような新興メーカーや、Google、Appleといった自動車産業への進出を狙うIT業界の巨人たちも力を入れている。しかし、ここになんと個人で自動運転車を開発し、実走にも成功してしまった人物がいる。

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(comma.aiより)

この人物とは、ジョージ・ホッツ氏。ほとんどの方はご存知ないと思うが、IT業界では知る人ぞ知る超大物ハッカーの一人だ。現在26歳のホッツ氏は、17歳の頃に「Geohot」のハンドルネームでiPhoneやプレイステーション3をハッキングし、いわゆる「脱獄」(ジェイルブレイク)状態にすることに成功。この「脱獄」とは、アップルやソニーの審査を経ない海賊版アプリの動作を可能にする行為だ。これらのメーカーは通常、自社の検査を経たアプリやゲームしか動作させないが、検査を通らないアプリが使えるようになるわけだ。

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(ホッツ氏Twitterより)

若くして天才的なハッキング能力を示したホッツ氏だが、フェイスブックに就職するもすぐに退社。その後はポツポツとセキュリティコンテストで賞金を稼いだりしながら暮らしていたが、2015年に入ってから人工知能に興味を示し、10月にホンダ・アキュラILXを3万ドル(約360万円)で購入。自分で改造を施しながらソフトウェアを開発し、ついに12月には公道上での初走行に成功している。開発にはわずか1ヶ月程度しか費やしていない。

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(Youtube:Bloombergより)

自動走行はコンピュータ上に搭載した人工知能が担当しており、これが人間の運転を学習して走行を最適化させ、1ヶ月ていどで高速道路を問題なく走れるレベルにまで到達している。もし人間がすべての処理をプログラムしていたら、開発に何年かかっていたかがわからないが、自動学習によってかくも効率良く最適化できるのだ。実際、人工知能部分は2000行程度のプログラムで構成されているとのことで、人工知能は自分自身を改良しながらどんどん巨大に成長しているのだ。

驚嘆すべきは、この自動運転に使われているコンピュータは米インテル社の「NUC」という、手のひらに乗るほど小さなコンピュータという点だ。秋葉原界隈なら2万円前後で購入できてしまうもので、小型で省電力だが、性能はそれほど高くない。これに、やはり1台10数ドルで購入できるカメラを6台、魚眼レンズ搭載のカメラを2台、それから21.5インチの液晶ディスプレイをセンターコンソールに、シフトレバー脇にジョイスティック(ゲーム用コントローラー)を設置してある。このように、誰でも購入できるパーツ類を中心に作ったシステムは、開発費総合計で2万ドル程度。規模や目的が違うとはいえ、人工知能の開発に10億ドルもの予算を投じたトヨタとは対極的だ。

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(Youtube:Bloombergより)

ホッツ氏は自動走行車を米ブルームバーグ誌の記者にデモンストレーションして見せ、このシステムを1000ドル程度で販売したいとしている。1000ドルといえば日本円にして約12万円。わずかそれだけで今の自分の愛車が自動運転に対応するとしたら、誰もが飛びつくだろう。これは、これから新車の高額なオプションとして自動運転システムを売り込みたい多くの自動車メーカーにとって脅威となるとともに、既存の自動車愛好家にとっては福音となるだろう(その気になれば自動運転のカウンタックだって実現可能なのだ)。

現在の自動運転システムは、BMWやVolvo、GMなどに採用されている蘭Mobileye(モービルアイ)社のシステムが主流だ。しかしホッツ氏はMobileyeのシステムを「時代遅れで追いつくことはない」と断じており、これを駆逐する意味でも、安価に自動運転システムを広めるつもりなのだ。業界の常識などお構いなしに、自らが最適と思うものを容赦なく投入する、実にハッカーらしい手法だ。

ホッツ氏のシステムには米テスラモーターズのイーロン・マスクCEOも多大な興味を示しており、ホッツ氏を何度もスカウトしているのだが、金に興味のないホッツ氏はこれを断り続けている。その代りに「何ヶ月かの間にMobileyeのシステムを上回る自動運転システムを開発する」という賭けをしており、その成果は悪路などMobileyeのシステムが苦手とする路面での自動運転というかたちで、Youtubeなどを通じて公開されるという。

ホッツ氏の自動運転システムは、法律や保険、改造版の登場(一般にハッカーは自分の作品を改造されることを厭わないばかりか、歓迎することが多く、システムの詳細を公開するケースも多い)など、実現に向けてはさまざまな問題は考えられるが、こうして「個人でも安価に自動運転システムを作れる」ことが明らかになってしまうと、システムを秘密のベールに包んで高額をつけるわけにはいかなくなってしまう。自動運転がいよいよ本格的に始動しようとしはじめた端緒に、いきなりとんでもない大物が登場してしまった感がある。どちらかといえば停滞気味だった自動車業界も、ITや人工知能との化学反応で、好むと好まざるとに関わらず、大きく変化する時期が来ているようだ。

[ライター/海老原昭]

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