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テクノロジー

更新2017.05.26

クリーンディーゼルの未来にも暗雲?フォルクスワーゲン不正問題の影響を考える

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海老原 昭

9月19日、独フォルクス・ワーゲン社のディーゼルエンジン搭載車について、米国での排ガス検査をくぐり抜けるための不正なソフトウェアを使用していたというニュースが世界中を激震させた。世界No.1を争う巨大自動車メーカーのスキャンダルは、これまで高い評価を集めてきたクリーンディーゼルの未来にも大きな影響を与えている。

検査逃れの不正ソフトウェアを搭載


今回問題になったのは、米環境保護局(EPA)による、フォルクスワーゲンへの告発だ。同社は4気筒ディーゼルエンジン「EA189」に、検査パターンの際にのみNOxの排出力を極端に抑制するようなプログラムを搭載。米国の環境基準「Teir2 Bin5」を不正にくぐり抜けるような措置が行われていたことが明らかになったのだ。このエンジンは1.4〜2.0Lのバリエーションで、ジェッタ、ゴルフ、ビートル、アウディ A3などに搭載されている。

事の発端は、先日、本誌のクリーンディーゼルに関する記事でも軽く触れた、国際クリーン交通委員会(ICCT)によるディーゼル車の実装調査だ。この調査では、シャシダイを使って特定の走行パターンでのテスト結果を計測する「EURO06」(欧州の基準値)や「Tier2 Bin5」とは異なり、実際に市街地を走行させ、その排ガスを収集して計測するという、徹底した実証実験を行った。その結果、フォルクスワーゲンのエンジンでは規制値の実に約40倍ものNOx排出が確認されたというのだ。


▲ICCTが発表した資料より。この図でいえば「H」や「L」が「EA189」を搭載していたと見られる。(ICCT公式資料サイトより)

米国の規制値は世界水準からしても厳しく、シャシダイと実走で違いが出るのも広く知られているが、さすがに40倍というのは差が大きすぎる。EPAの調査に対し、フォルクスワーゲンは2008年から、検査時にのみ理想的な燃焼パターンを行う不正なエンジン制御ソフト(Defeat Device)を使用していたことを供述したのだ。

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フォルクスワーゲン グループが及ぼす影響は、全世界1100万台に



(VW Group公式サイトより)

これを受けて、EPAは米国で販売された48万2000台に対して規制値を満たすよう改修することを指示した。さらに今後の調査が進めば、制裁金が科せられる可能性もある。ちなみに米国での制裁金は1台あたり3万7500ドルと言われており、48万台では単純計算で2.1兆円以上となる。フォルクスワーゲングループの純利益が1年分以上、軽く吹き飛ぶ計算だ。

当初は米国向けの車両のみが対象とされてきたこの問題も、調査が進むにつれて対象がどんどん広がり、結局はEA189エンジンを搭載する全数である、世界約1100万台が対象であることが明らかになった。当然、これにはフォルクスワーゲンの母国であるドイツを含むEU市場が含まれている。フォルクスワーゲンは対策費として65億ユーロ(約8700億円)を引き当てる計画を発表したが、各国は個別にリコールの指示や制裁金を検討しており、まだまだ費用は膨らむ一方。さらに問題の発覚以来、約3週間で株価は40%も下落しており、企業価値は4兆円以上も下がっている。

実は、ドイツ政府も2011年には問題を把握していたという情報もあり、自国の巨大企業相手に政府が黙認してきたとすれば、政権にとっては大きなスキャンダルとなる。こうなると一企業の問題では済まなくなってきている。

クリーンディーゼルの命脈が絶たれる?




そもそも、クリーンディーゼルは、年々厳しくなる環境規制に対し、対応できない欧州自動車メーカーが苦肉の策で生み出した「延命措置」だった。温暖化問題などに対応するにはハイブリッド化や電気自動車、燃料自動車への移行が最終的には必要であるのは明らかなのだが、そうした基礎技術をほとんど持たず、日米のメーカーに主要な特許を抑えられている欧州メーカーにとって、得意なディーゼル技術を改良して対抗する以外に道はなかった、というのが実情だろう。

幸い、ワイド化&大型化が進む乗用車ではハイブリッドよりディーゼルの低燃費、高トルクといったプラスの面に脚光が当たりやすくなり、環境問題が解決しているなら、高速走行で効果の出にくいハイブリッドではなく、ブランド力が高く長距離の高速移動も楽な欧州車のクリーンディーゼルを選ぶという選択肢もありだ、という意識を広めるに至った。せっかく欧州以外の市場でのイメージが改善しつつある中での今回の事件は、クリーンディーゼルという存在そのものにとどめを刺してしまいかねない一撃となってしまった。

結局のところ、ディーゼルエンジンにとってNOxやCO2は切っても切れない存在だ。高価な触媒や尿素SCRシステムといった後付けのシステムを使わなければ、どんな優れたエンジンでも、環境水準を満たすのは難しい。BMWやメルセデス・ベンツといった高級ブランドであればそうしたシステムの追加による価格上昇を正当化もできようが、フォルクスワーゲンはあくまで大衆向けブランドであり、主力となる小〜中型車で、数十万円もの価格差を正当化することは難しいのだ。

現行の基準であれば、例えばマツダの「SKYACTIVE」のように触媒などを使わずに基準値を達成している例もあるが、今後実走ベースの試験に変わっていけば、追加コストは免れ得ないだろう。これにより、低価格で販売しなければならない小型〜中型車向けのクリーンディーゼルは命脈を絶たれたも同然だと見る。

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フォルクスワーゲン不正問題の落とし所はどうなる?




多額の制裁金や改修費用に加え、ドイツ政府までを巻き込んだスキャンダルに発展しかねないとなると、フォルクスワーゲン自体の存続すら危うくなりそうだが、幸いフォルクスワーゲンの保有資産額や、またドイツの輸出額の20%に達すると言われる経済への影響を鑑みるに、倒産や解体といった最悪の事態だけは避けられそうだ。諸外国からの訴訟や制裁についても、ドイツ政府を含めて様々な形での緩和策が講じられるだろう。

株価の下落による影響も危惧されるが、フォルクスワーゲンの株式の過半数(50.76%)はポルシェSEが保有しており、20%をニーダーザクセン州が保持している。機関投資家や個人投資家による訴訟はそれほど大きな影響を与えることにはならないだろう(ポルシェの大株主であるポルシェ家とピエヒ家の間の軋轢はここでは考慮しないことにする)。

ただし、フォルクスワーゲンというブランドが被ったイメージへのダメージは、簡単には回復しないだろう。これまでフォルクスワーゲンというブランドが抱えた歴史、イメージに価値を見出していた購買層は、これを機会に別のブランドに乗り換えてしまいかねない。これを回復するには、よほど大きなイメージの改善策が必要だ。

いささか大胆な提言としては、クリーンディーゼルなど既存の技術に見切りをつけ、思い切って電気自動車や自動運転など最先端の技術に投じることだ。幸い、フォルクスワーゲンの傘下には自動運転技術に力を入れているアウディがある。また、いっそGoogleなりAppleなりと言った、自動運転技術は持つが、自動車産業との接点が少ない企業と提携するという方法もあるだろう。こうした相手であれば、買収ではなく、生産や整備を担当するなどの方法で、対等な提携という形で技術供与を受けることも不可能ではないはずだ。

もちろん、今後も当面は内燃機関が自動車の主流であり、ガソリン車やディーゼル車が中心であり続けるだろう。だが「フォルクスワーゲン+ディーゼル=不正」という負のイメージを断ち切るには、よほど大胆な施策が必要なはず。フォルクスワーゲンと言う歴史ある会社にとっては不本意かもしれないが、技術提携や大胆な買収などを経て、早く新生フォルクスワーゲンと言う印象を与えた方がいい。そしてそれは、あるいは欧州車メーカー全体に指摘できることではなかろうか。

[ライター/海老原昭]

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