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オーナーインタビュー

更新2017.05.10

幻のエンジンを甦らせるほどクルマが好きで仕方がない、トミタクさんの究極カーライフ

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野鶴 美和

今回の主人公は、富松拓也(とみまつ・たくや)さん。ニックネームは『トミタクさん』。自動車関連会社で、チーフエンジニアとして活躍しています。



インタビューは日曜の早朝からご自宅にお邪魔して行なうことに。奥さま、二人の幼い娘さんが迎えてくださいました。トミタクさんは筆者が勝手に描いていた気難しい職人イメージとは裏腹に、とてもさわやかで親しみやすく、兄貴的な雰囲気を持っていらっしゃる方でした。

幻のエンジン、TC24-B1はトミタクさんの代名詞



▲1980年に製作された“幻のエンジン”オーエス技研TC24-B1[写真提供:富松拓也さん]

トミタクさんは、クルマ業界では知る人ぞ知る達人。幻のエンジンと呼ばれる『オーエス技研TC24-B1』を甦らせた人物として知られています。いまや代名詞となったTC24-B1は1980年に登場。当時のフェアレディZやローレルなどに搭載されていたL28型をベースにし、独自の技術でツインカム4バルブ(クロスフロー方式)にしたエンジンです。レストア時に存在しなかった部品は、トミタクさん自身がイチから製作したそうです。

TC24-B1の復活をきっかけに、製造元のオーエス技研で再生産(TC24-B1Zとして)もはじまりました。このエンジンの話題になると、人懐っこいトミタクさんの表情が凜とし、言葉が熱を帯びます。

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TC24-B1の原型となったTC16-MA1型について



▲TC16-MA1型は1972年(開発は1970)に登場。現代ではあたりまえとなっている『燃焼室形状』を、当時いち早く気づいて取り入れた4気筒ツインカムエンジン。[写真提供:富松拓也さん]

TC24-B1には、原型となったエンジン『オーエス技研TC16-MA1型』が存在します。「このエンジンを語らずしてTC24-B1を語ったことにはならない」とトミタクさん。

「TC16は50年近く前、当時は誰も理解できなかった燃焼スピードを上げるための『燃焼室形状』を採用したエンジンです。この燃焼室形状がTC24にも受け継がれています。現代ではあたりまえとなった『いかにガソリンをキレイに燃やすか』を1970年初頭に、地方の小さな会社が、国内自動車メーカーのどこよりも早く気づいて開発していたコトは本当にスゴイのです。TC16とTC24は、日本の自動車史に入るほどの歴史的なエンジン、工業遺産といってもいいでしょう。これからも守っていきたいです」


▲1970年代のバルブ挟み角が平均40〜60度だったなか、TC16-MA1型は20度と浅いものでした(現代の自動車で約20度が平均)。この燃焼室がTC24-B1に継承されています。写真は現存1基となった実物の燃焼室[写真提供:富松拓也さん]


▲TC16、TC24ともシリンダーヘッドは砂型重力鋳造で作られています。当時は金型加圧鋳造の工場が県内になかったため、かなりの試行錯誤を重ねたそう[写真提供:富松拓也さん]

「TC24-B1 を復活させなかったら、ごく少数の関係者が知るだけで忘れ去られていったでしょう。ですから『必ず復活させないと』という熱意がありました。加えて、当時スタートしたばかりのYouTube や、個人のホームページで広く発信できたのも反響を呼べて良かったと思っています。本家オーエス技研も改良型を再生産していますし、復活できて本当にうれしいですね」

大企業ばかりが高性能なモノを作るとは限りません。それを証明してくれるエンジンTC24-B1は、復活させた個体を含む“元祖”9基のうち4基が現役。その4基ともトミタクさんがメンテナンスを行なっています。

今回はトミタクさんの人柄やカーライフに注目



▲10年以上も探して手に入れた幻のエンジンTC24-B1は、2005年に復活を遂げました[写真提供:富松拓也さん]

これまで、トミタクさんの仕事や手掛けた車輌がメディアで紹介される機会は多かったのですが、カーライフを取り上げた内容は意外と少なかったのです。そこでカレントライフでは、トミタクさんのカーライフを中心に、クルマ好きの原点や秘めた想いを2部構成でお届けいたします。

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「好きで仕方がない」が伝わってきます




トミタクさんの自宅敷地には、ガレージが2棟あります。新居を購入した際に併設していた元建築事務所をファクトリー付きのガレージに改造。その後、もう1棟を仲間と一緒に増築。ファクトリーには、数々の工作機械が並びます。(ガレージのくわしいエピソードは後編にて)

仕事を終えて帰宅後、仲間から預かったエンジンやミッションの改造・修理を進めるのが日課です(仕事として請け負ってはいません)。『夜の研究室』と称し、向学のためのクルマ弄りに没頭するのです。

夕食をとって家族との時間を過ごしたあと、22時から夜中の2・3時まで作業。朝7時には起床して出勤します。とにかくアクティブな日々を過ごされていました。

「時間を作らないとできないですからね。1日30時間ぐらいあればいいのにと思っちゃいます。寝たら損をしたような気がして落ち着かないんですよ。寝るのはもっと歳をとってからでいいかな…というか棺桶に入ってからでいいかな、みたいな(笑)」

努力を努力と感じない人を稀に見ます。例えばゴルフが楽しくて、つい猛練習をしてしまうプロゴルファー。仕事でもないのに、四六時中写真を撮っているフォトグラファー。“好きで仕方がない”人びと。トミタクさんもその一人ではないでしょうか。


▲手動送りの旋盤を動かしながら。「使い手の意思を聞いて動いてくれる忠犬みたいな道具。製作はワンオフばかりなので、これで十分です」

修理中のエンジンを拝見



▲休日には自然とクルマ仲間が集まります。取材当日もこちらのお二人が

取材当日のガレージには3基のエンジンがありました。すべてご友人のエンジンで、普段はなかなか見ることがない貴重なものばかり。さっそく見せていただきました。

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フェラーリ 308GTB クアトロバルボーレ



▲1982〜1985年にかけて生産されたモデル。クアトロバルボーレとは4バルブ化したエンジンヘッドの意味

名づけて『フェラーリ308クアトロバルブをキャブで回そう計画』。もとはインジェクションだったのですが、調子が悪くなりやすいということで、エンジン内部も圧縮比を上げるなどの改良を加えつつ、キャブレター仕様に変更したエンジンだそうです。

308GTBの2バルブ※のキャブレターが使えるように、インテークマニホールドを自作。加えてフェラーリ純正の弱点だというタイミングベルトは耐久性のある日本製に取り替え、プーリーも自作しています。ディストリビューターはレンジローバーのものが用いられています。

※308GTBは、モデルチェンジ前はキャブレター式

「あとはクーラーコンプレッサーを国産品が使えるようにしています。快適にドライブできますよ。僕は結構、こういうところが気になるほうです」

ランボルギーニ エスパーダ



▲エスパーダは1970年代に生産されていたモデル。4L V型12気筒エンジンを搭載

こちらのエンジンは、なんとバラバラの状態で持ち込まれたものを組み上げたそう。一度車体へ搭載したものの、再度“世界最速(オーナー希望)”のランボルギーニをめざし、再び完全分解して手を入れていく予定とのこと。

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ニッサン スカイラインGT-R(S20)



▲レーシングカー『R380』のエンジンをベースに開発された2L直列6気筒エンジン。「まさに芸術品ですよね!」とトミタクさん

ハコスカのS20型エンジンはオーバーホールを。トミタクさんはネジ類まで徹底してメッキ加工するため、見た目も良くなるとのこと。タペットカバーの結晶塗装も、知人に教わりながら自らの手で行なっています。

6台の愛車たちに囲まれるカーライフ



[写真提供:富松拓也さん]

現在、6台のクルマたちと暮らすトミタクさん。愛車たちもレストアからメンテナンスまで自身で行ないます。普段の足はホンダ アクティとBMW E90(奥さまの愛車)を。趣味車としてホンダ S600、フェラーリ512BBi、マツダ R360クーペ、ニッサン フェアレディZがガレージに並びます。今回はトミタクさんの寵愛を受ける、趣味のクルマたちをご紹介していきましょう。

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ニッサン フェアレディZ(S30Z)



▲エンジンは復活させたTC24-B1を搭載。板金を終えて2004年に納車。いまやトミタクさんの分身的存在に[写真提供:富松拓也さん]

1974年式。現代に甦ったTC24-B1は、このZに搭載。『トミタクZ』として数々の自動車誌に登場。このエンジンを復活させれば海外からの反響も大きいと想定し、海外でも人気の高かったS30Zを選んだそうです。自動車誌の企画で、ポルシェ 930ターボとゼロヨン対決するという夢も叶いました。

購入当初になんと、大事故車であることが判明。そこで県内の優秀な職人に板金を依頼しました。モンスターエンジンのパワーに耐えられるよう、徹底的な修理が行なわれました。その驚異的な技術をご覧ください。


▲外観に問題なくても、内部は事故の痕が生々しく、腐食も進んでいました[写真提供:富松拓也さん]


▲美しく整えられたドア。手掛けたのは、鉄板を叩き出して花瓶を作るほどの凄腕職人[写真提供:富松拓也さん]


▲内側も外装と同じ塗装が念入りに施されました。そこへTC24-B1がおさまります[写真提供:富松拓也さん]

フェラーリ512BBi



▲「スーパーカー世代」であれば、知らない人はいないほどの1台。キャブレターからインジェクションとなったモデル[写真提供:富松拓也さん]

1982年式。フェラーリの中古車高騰直前に手に入れた個体です。トミタクさんがローンをやりくりしながら二十数年をかけて貯めた『フェラーリBB貯金』で購入したそうです。

「デザインもさることながら、やはりメカニズムに興味がありました。乗るのは派手すぎて恥ずかしいので、深夜か早朝にコソっと乗っています」

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マツダ R360クーペ



▲デザインは日本を代表する工業デザイナー・小杉二郎氏によるもの[写真提供:富松拓也さん]

1960年式。“量産乗用車として”※は日本初のAT車をラインナップした車種です。この個体もAT。2011年に仲間入り。かわいらしい外見なので、娘さんたちもお気に入りなのだとか。

「デザインはもちろんですが、やはりメカニズムに魅了されました。エンジンやミッションにはマグネシウム合金を多用し、軽量化と耐久性を両立させています。しかもエンジンオイルはドライサンプ式を採用。エンジンレイアウトはポルシェ356にそっくりですね」

※日本初のAT車は岡村製作所によるミカサ・ツーリング

ホンダ S600



▲F1とオートバイレースで培われた技術とアイデアが凝縮された1台

1964年式の初期型で、エンジンは1965年式に換装された個体です。普段はファクトリーのあるガレージで暮らしています。取材日の2日前にエンジンのオーバーホールを終えたばかりでした。この『ホンダのS』がトミタクさんのエンジニアとしての姿勢に、大きく影響を与えています。後でくわしくご紹介いたします。

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ドラマティックな愛車遍歴の持ち主でもあります


2003年には、当時所有していたホンダ S800とトヨタ スポーツ800とともにTV番組へ出演されたそう。

「若い頃は給料のほとんどをクルマにつぎ込んでいました(笑)」と話すトミタクさんの愛車遍歴は、じつにバラエティに富みます。1993年、19歳で初めて購入したローバー MINI1000でチューニングの面白さに開眼。メンテナンスまで自身で行なうようになります。

MINIのローンを支払いながら20歳でトヨタ スポーツ800(ヨタハチ)を増車。MINIのローンを終えると、ヨタハチのローンを支払いつつホンダ S800を増車。その後ドイツ車にも魅了されポルシェ930ターボ、BMW320i、850i、E34型535i、E39型ワゴン、2000CSを乗り継ぎました。

2003年、TC24-B1とめぐりあったトミタクさんは、TC24-B1に力のすべてを注ぐべく、所有していたクルマのほとんどを手放しました。

今回はトミタクさんの愛車遍歴のなかでとくに印象深かった3台との、思い出のエピソードを振り返っていただきました。

BMW 320i 改 330



▲ボディカラーはダイヤモンドブラックからトヨタ アリスト用シルバーに全塗装[写真提供:富松拓也さん]

1987年式の5MTで、当時のBMW Japanが少数輸入した数台のうちの1台でした。

トミタクさんはこの320iでドイツ車に魅了されたそうです。1995年にMINIと入れ替わりで納車。約3年間普段の足として乗った後、850iの増車をきっかけに“3000cc化”のベースとしてフルチューンすることに。一度登録を抹消されます。

そして2001年に320i改330として復活。サーキット走行会でも活躍します。E46型M3よりも速く、250馬力はコンスタントに出ていたそう。その後TC24-B1の資金となるべく旅立ちました。


▲インテークマニホールドの製作風景。下書きに沿って糸鋸でカットします[写真提供:富松拓也さん]


▲ピストンはランサーエボリューション用を加工[写真提供:富松拓也さん]

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ポルシェ930ターボ



▲漫画「湾岸ミッドナイト」に登場するブラックバードでおなじみ[写真提供:富松拓也さん]

こちらのポルシェ 930ターボは1978年式。オーナーだった競艇選手のもとへ直接出向き、思いの丈を話して口説き落とした特別な1台です。2005年から約10年間所有しました。

加えて、トミタクZと930ターボのゼロヨン対決も、自動車誌の企画を介して実現。結果はトミタクZが勝利をおさめました。

「70年代のクルマがこんなに走るのか、というスゴさを知りました」


▲新車時の塗装がくたびれていたため、友人たちと全塗装を[写真提供:富松拓也さん]

BMW 850i



▲1993年式で、5L V型12気筒エンジンを搭載。写真は2号機[写真提供:富松拓也さん]

BMW 850iは1993年当時のフラッグシップモデルでした。トミタクさんは、この850iを2台乗り継いでいます。オーナーに芸能人が多かったことで派手なイメージがついていたそうです。

まずは『1号機』の紹介から。1998年に迎えた1号機は、高齢のオーナーが大切に乗られてきた個体でした。譲り受ける形で購入した直後にオーナーが急逝。トミタクさんは遺志を継ぐかのように5年間大切に乗り続けます。ところが2003年のある日、不慮の事故に巻き込まれて廃車に。反対車線から飛び込んできた車との正面衝突でした。


▲写真は2号機。930ターボと[写真提供:富松拓也さん]

その6年後、縁あって『2号機』を迎えることになります。余談ですが2号機納車は事後報告となってしまったため、当時新婚だった奥さまをびっくりさせてしまったそう。

2号機は新車から17年間も大切に乗られていた、程度の良い1オーナー車でした。奇しくも納車日が1号機の登録抹消をした日。そしてさらに驚くべきことが起こります。

1号機と2号機の車台番号が1桁違いだったのです!

「前のオーナー様から車検証のFAXが送られてきたときは絶句してしまいまして…。ボディ色と内装色が1号機と同じなので、おそらく25・6年前に遠くドイツの生産ラインの前後で製作されたのでしょう。その後各国へ出荷したはずです。こんなコトってあるのですね。いろんな偶然が重なった思い出の1台です」


▲失った1号機(下)と1桁違いだった、2号機車台番号(上)。抹消登録証明書と照らし合わせて言葉を失いました[写真提供:富松拓也さん]

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クルマ好きの原点は、お父さまの影響



▲プリンス スカイラインをドライブするトミタクさんのお父さま。完成したての音戸大橋ループ橋(広島県)にて。昭和37年当時の風景が貴重[写真提供:富松拓也さん]

公私ともに多くのクルマたちと付き合ってきたトミタクさん。その原点はどこにあったのでしょうか。クルマ好きに至ったルーツをたどります。

「僕の父親もクルマが大好きでして、その影響が大きかったのかもしれません。独身時代にはスカイラインに乗っていましたし、僕が生まれた頃にはロータリーエンジンに凝っていて、ファミリアクーペやカペラのセダンに乗っていましたね。それからクルマのプラモデルもよく作ってくれていました」

話は幼少期の体験に移ります。トミタクさんが4歳の頃、なんと精密ドライバーを使ってカメラを分解。こっぴどく叱られるはずですが、そのときお父さまは誉めてくれたと言います。

「親の教育方法も影響しているかもしれません。自分が父親になって実感したのもありますが、好奇心を大切にしてくれたのが良かったのでしょう。僕が子どもだった頃は、基本的に好きなコトをさせてくれました。怒られてしまえば、もうやってはいけないという気持ちが前に出てしまいますが、うちの親はそこで『元に戻せるか?』と試させてくれた。もちろん直せませんでしたけどね(笑)。それからは自転車やおもちゃを買ってもらっても、まずバラして徹底的に中身を観察するクセがついていましたね。このような体験が基礎になりつつ、クルマが好きになっていったんじゃないかなと思っています」

クラシックカーに惹かれたきっかけは、『こち亀』



▲マツダ R360クーペのレストアを行なうトミタクさん[写真提供:富松拓也さん]

そんなトミタクさんがクラシックカーに惹かれた経緯とは、何だったのでしょうか。

「小学校の低学年の頃、旧いクルマのデザインに惹かれるようになりました。当時読んでいた漫画の影響もあるかなあ。その頃はメカなんて当然わからないですからね(笑)。『サーキットの狼』とか。あとは『こち亀』。クルマの漫画じゃないけれど、作者の秋本先生がクルマ好きだからクルマのネタがよく出てきます。こりゃおもしろいなと思って夢中になりました」

小学生低学年ながら、こち亀のネタがおもしろいと思える感性が、トミタクさんのクルマに対する価値観の基礎を育んだのかもしれません。そんな幼少期を経てクラシックカーをメインとした自動車誌を好む少年へと成長します。

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ホンダのSで覚醒、機械弄りの魅力にとらわれて



▲S600をドライブするトミタクさん。ステアリングを握る腕にはジラール・ペルゴのヴィンテージ1945が。自社一貫生産にこだわるブランドで知られます

メカニックの原点となったクルマは『ホンダのS』でした。中学2年生の頃、ホンダ S600、S800のオーナーやファンが集うクラブ『ホンダ ツインカムクラブ大阪』へ入会。自動車免許を取得するまで在籍していました。トミタクさんは、当時のようすを振り返ります。

「いま思えばよくこんな子どもを迎えてくれたな、と(笑)。本当に感謝しています。小遣いを頑張って貯めてクラブのビデオを買いましたし、送ってきてくれる会報を読むのも大好きで、すっかりホンダのメカに惚れ込んでしまいましたね。エンジンもさることながら車体もすべて独創的でした。本田宗一郎さんの出ているTV番組もチェックしていました。『学ぼう』という姿勢じゃなく、『こういう人が日本のものづくりを支えてきたんだな』という素直な気持ちで観ていました」


▲ホンダツインカムクラブの会報誌は、いまも大切に保管。「センスが良い!イラストもうまいし、まとめ方が最高ですね。」[写真提供:富松拓也さん]


▲「ホンダは後発メーカーですが、ずっとオリジナルで勝負してきた。オートバイレースでは成功していたので、日本一になるという気持ちがとても強かった。だからこんな製品ができたと思います」

ホンダのSと本田宗一郎に魅了され、メカニックの専門書を読み漁るようになったというトミタクさん。いまの仕事の原点だと語ります。

「子どもの頃、もし自分が機械を扱う仕事に就くのであれば、本田宗一郎の精神で仕事をしたいと思っていました。もちろん、いまも。まだガレージも道具も揃っていなかった若い頃、朝までクルマを弄っていたあの気持ちを忘れたくないですね。不便さや制約のなかで結果を残したいという意地がありました。僕はもう若くはないですけど、つねに20代の気持ちで本田宗一郎のように『やりたい!』という意地は張り続けたいと思っています」

再びSへ、S800よりもS600を選んだ理由



▲TV番組の取材風景。右がヨタハチ(左)とともに所有していたホンダ S800[写真提供:富松拓也さん]

さて、トミタクさんが現在所有するS600は、納車して3年目を迎えました。購入前は同じS800を乗るつもりでいたところ、クルマ仲間の「エスハチは速いが、エスロクのほうがエンジンを回して楽しいクルマだ」とのアドバイスでS600を迎えることに決めたそうです。


▲斜め45度の傾斜で鎮座する水冷直列4気筒DOHCエンジン


▲「技術が乏しかったぶん、アイデアと情熱がたくさん詰まった宗一郎さんの作品なんですよね…」と愛情たっぷりでエンジンに火を

「僕の言葉よりも、実際に感じてみてください」と、トミタクさんはS600をガレージから出し、筆者をナビシートに乗せて公道へ。

「実際はS800のほうが速いのですが、S600は性能では表現できない魅力がある。うまく言えないですけど、技術よりも情熱というか。53年前にこれだけのクルマがあること自体、驚異じゃないですか?」

そう話しながら徐々にアクセルを開けていくトミタクさん。タコメータはバイクを思わせる甲高いサウンドに包まれながら、9000回転まで一気に回っていきます。その存在を誇示するかのように哮りたつエンジンが、筆者の胸を震わせます。言葉にできない感動が、そこにはありました。

ふと筆者は思いました。もし『クルマ離れ』した若者がこのS600に乗ったなら、果たしてどんな反応をするだろう、と。

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▲本田宗一郎の情熱をまとったS600は、誰が乗っても胸を熱くさせるはず。理屈ではなく、感じることの大切さを実感。取材時のサウンドも合わせてお楽しみください

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クルマ離れに思うこと、ホンモノに触れることで芽生えてほしい




S600に乗せていただいてふと思ったことを含めて、筆者はトミタクさんにたずねてみました。クルマ離れが増えている若者に対して抱いている思いです。

「できるだけホンモノに触れてほしいです。インターネットが悪いわけでないのですが、いまは情報を得るだけで『やったつもり』になってしまう人が、すごく多いと感じています。クルマも然りで、情報だけではなく実際に乗ってみるコトで見えてくるホンモノの部分は、非常にたくさんあります。『触れることで芽生えてほしい』という気持ちはありますね」

後編はガレージライフをクローズアップしていきます



▲これは何のエンジンでしょう?

まるで『よろしくメカドック』の世界でした。偶然にも筆者の近所にお住まいで、こうして取材させていただき心から嬉しく思います。続く後編では、トミタクさんのガレージライフをメインにご紹介していきます。貴重なお宝も満載でした。どうぞご期待ください。

※トミタクさんによる趣味のホームページでは、今回紹介した愛車の修理レポートや走行動画などを掲載。
http://www.tomitaku.com/

[ライター・カメラ/野鶴美和]

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