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更新2017.07.05

本当は怖い!? 意外と知らない助手席エアバッグの危険性

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海老原 昭

大阪で軽自動車の助手席に座っていた3歳の幼女が、エアバッグに胸部を圧迫され、それが原因で亡くなったという事故があった。搭乗者を守るべきエアバッグが実は凶器になりかねないことは、あまり正しく理解されていない。今一度、乗員の命を守る安全装置について考えてみよう。

エアバッグは音速で膨らむ


エアバッグの仕組みは、車両内部のセンサーに一定の角度で大きな衝撃が伝わると、エアバッグを膨らませる「インフレータ」が点火する。インフレータの中には薬品が入っており、燃焼することでガスが発生し、そのガスがエアバッグを膨らませる。センサーが作動してからエアバッグが膨らむまでの時間は運転席の場合約0.02〜0.03秒、助手席の場合で0.03〜0.04秒で、人間の瞬き(0.1〜0.2秒)よりはるかに早い速度で作動する。

これだけの速度でエアバッグが膨らむということは、エアバッグそのものが膨らむ勢いも相当に高いということ。一般にインフレータのガスが膨張する速度は音速に達すると言われており、爆発音で一時的に聴力がおかしくなったり、鼓膜が破れることもある。エアバッグに圧迫されて肋骨や胸骨を骨折するといった事故も少なくない。それでも(心臓マッサージで肋骨が折れることがあるのと同じで)「死ぬよりはマシ」というのが安全装置の考え方なのだ。

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シートベルトとセットで使うのが正しい使い方


ちなみに、現在のエアバッグの正式名称は「SRSエアバッグ」。SRSは「Supplemental Restraint System」の頭文字だ。そのまま日本語に直すなら「補助拘束装置」となる。では、何を「補助」するのかといえば、シートベルトだ。

事故の際、シートベルトは少し巻き戻る方向に引きつけられ、乗員をシートに固定する。そこにエアバッグが膨らんで乗員を固定し、衝撃の際に打ち付けられずに済むようにしてくれる。拘束が目的なので、多少怪我をしてでも、命を守るために勢いよく広がり、身動きとれないほど膨らむのが正常なわけだ。

シートベルトは正しい姿勢で装着しなければ、首にかかってしまったり、すり抜けてしまったりして、逆に危険を伴う。身長が120cm未満の場合はチャイルドシートやベビーシートで補正することで、正しいポジションを実現する。

助手席にチャイルドシートは自殺行為!


自動車の取扱説明書をしっかり熟読したことがある人は、残念ながらそれほど多くないだろう。従って、子供を自動車に乗せる際の必需品とも言えるベビーシートやチャイルドシートは、助手席にはなるべく付けないように、という注意書きがあることも、あまり知られていないはずだ。ちなみにベビーシートは2歳未満の子供が利用する、主に水平に寝かせて使うタイプのもので、進行方向と逆向きに設置する。チャイルドシートは2歳以上の子供が対象となり、進行方向に向かって座り、座席の厚みをカバーするためのものだ。

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撮影:筆者

上の図はウェブサイトで公開されているホンダ・フリードの取扱説明書だが、チャイルドシートについては2列目の座席で使うように指示が出ているのがおわかりになるだろう。基本的に、国産車の取扱説明書は、すべてこれに準じた内容だと思っていい。

小さな子供、特に乳児を自動車に乗せる際、運転手は泣いている子供に対応するため、ついベビーシートを助手席に乗せてしまいがちだ。ところがベビーシートは人体よりも奥行きがあるため、もしエアバッグが展開すると、バッグがベビーシートを押し出してしまう。チャイルドシートの場合でも同じことで、助手席エアバッグはもちろん、再度エアバッグが膨らんで子供が弾き飛ばされ、大怪我をするというケースもあり、非常に危険だ。取扱説明書の注意書きはこうした場合に備えたものなのだ。

ちなみに、例えばマツダ・ロードスターやホンダ・S660のような2シーターの場合、助手席には基本的に子供を乗せないように、という記述になっている。どうしても乗せなければならない場合は、シートを最も後ろの位置にして、ベビー/チャイルドシートは必ず前向きに設置するよう指示されている。

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エアバッグキャンセルスイッチの出番


どうしても助手席にベビー/チャイルドシートを置かねばならない場合に備え、輸入車、特に欧州車には、助手席エアバッグが展開しないようにするための、エアバッグキャンセルスイッチが付いていることがある。最近は米国車でも、一部の車種で見られるようになった。

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撮影:筆者
▲BMW Z4(E85)のエアバッグキャンセルスイッチ。助手席ドアを開けた車体側、グローブボックス脇に付いていた。エンジンキーでポジションを変更する

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撮影:筆者
▲こちらはBMW Z8のエアバッグキャンセルスイッチ。こちらはセンターコンソールのシフトレバー脇にボタンがある。左ハンドル車のものなので運転席側(左側)に付いていた

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撮影:筆者
▲これはプジョー407のエアバッグキャンセルスイッチ。コインなどでスイッチをひねるタイプ

このスイッチを有効にすると、事故の際に助手席側のエアバッグだけが展開しなくなる。当然、通常の成人並みの体格の人が乗る場合は逆に危険なので、必ず乗車の際にスイッチのポジションを戻さねばならない。スイッチがない車両の場合でも、ヒューズを抜くなどして特定のエアバッグを作動できないようにすることは可能だが、スイッチのように手軽に切り替えられないのが欠点だ。

国産車がこのスイッチを搭載しないのは、スイッチをオンにし忘れて事故が起き、エアバッグが展開しなかった場合を考えて、あえてそのようにしているのだと思われる。だがもう少し、ユーザーに安全性の選択肢を与えてもいいのではないだろうか?

悲劇を繰り返さないために


大阪での事故の場合、チャイルドシートなしで3歳児を助手席に座らせたということで、まずシートベルトが体格に合っていなかった。また、シートの位置もよくなかったのだろう、展開したエアバッグが胸部を圧迫し、その結果心臓が挫傷を起こしてしまったようだ。もし後部座席で正しくチャイルドシートを使用していれば、このような事故にはつながらなかったはずだ。

とはいえ、大泣きする子供を乗せて運転するお母さんなどは、泣き声が聞こえると本能的に脳がその音に注意を向けてしまうため、運転に集中できないということもある。そのため、子供を後部座席に乗せるより、どうしても助手席に座らせたいというケースもあるだろう。

国産車のメーカーは、こうしたニーズにこたえて、エアバッグキャンセルスイッチを使う選択肢を準備してほしい。安心して我が子を隣に乗せて運転できるという心理的余裕が、安全運転につながることもあるはずだ。

また逆に欧州車に乗っておられる方は、もし小さな子供や孫を助手席に乗せる場合、チャイルドシートを適切に装着し、必要に応じて助手席エアバッグキャンセルスイッチを使うことを忘れないようにしてほしい。これから夏休みを迎え行楽シーズンとなるが、万が一の事故の際に、愛する家族を失わないためにも、自車の安全装備を今一度よく見直しておいてほしい。きっと無駄にはならないはずだ。

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