アイキャッチ画像
イベント

更新2017.06.23

トヨタ博物館で「日本のクラシックカーの昔と今」について語り尽くす

ライター画像

鈴木 修一郎

クラシックカーが好きな方も多いカレントライフの読者の皆様の中には、トヨタ博物館の布垣館長が昨今のクラシックカーの事情についてどう考えておられるのか知りたいという方も多いと思います。ズバリ、昨今の日本でのクラシックカーの事情についてもどう思われているかについてもお話を伺いました。

─ちょっとシビアな話になるんですが……昔は国産車のクラシックカーが格下に見られていた時期があったと記憶してるんですが、それについてはどう思われていますか?

別にクラシックカーに限らずトヨタ自動車も含めてですけど、トヨタ自動車が創業した時点で欧米のクルマって50年近い歴史あったわけでですし、トヨタが50周年の時点で100年の歴史の中で半分だなと言う認識だったんじゃないかと思うんですよね。ですからトヨタ博物館が創館された89年時点でトヨタが50年、ベンツは100年だったとかいう感じから言うと、この博物館が出来た時には成人の半分くらいしか歴史がなかったんです。勿論それに加えて、実際日本車が89年以降に急激に海外に生産を移していったわけで、それ以前の50年と言ったら国内の市場がメインで海外で日本車が認めていただけるにはまだまだ歴史が浅かったでんすね。

ですからトヨタ博物館が出来てから今年で28年なんですが、それ以前の50年とその後の28年では実はクルマの生産量は博物館が出来てから作られたクルマの生産量の方が倍くらい多いんです。ですから歴史がそれ以前とそれ以後でかなり様変わりしていって……ですから、これは量が出るということではなくって実際に直接日本のクルマに乗られたり、接する機会が急激に増えていたわけですから、世界の中で日本のクルマの位置づけというのがそれと並行してだんだん認めていただけるようになったんです。

─レクサスのLS400(初代セルシオ)とか、あとNSXとか輸出はしてなかったですけどGT-Rがニュルブルクリンクでフェラーリ、ポルシェに迫る数値を叩き出したっていう……やっぱりあのあたりが一つのターニングポイントみたいになったと?

もちろん60年代の2000GTのスピードトライアルもターニングポイントになったと思いますが、結局そういった事の積み重ね一つ一つで世界に一つずつ、日本の自動車メーカーのクルマがそういうタイミングで認知されていったんだと、それから30年ずれてクラシックカーの価値に移行していくわけですから、ある意味今になってようやくそういったものが世界中の人たちに認められ始めたのかなと。

ですから、日本のクルマがオークションで良い値段が付いたというのも、純粋にクルマとして良い物は良い、別に日本車だから良いとか悪いかではなく日本車の中でもいいクルマはあるだろうし、そうでないクルマもあるだろうし(苦笑)。それは純粋に良いものは良いという時代になってきたと思うんですね。



─ここ数年クラシックカーの市場価格が暴騰しているというのは博物館の方としてはこの状況についてはどう思われてるんでしょうか?

例えばオークションの価格だとか、そういった市場での販売価格について問い合わせがあった場合は、それはお答えできないと言ってるんです。それは何故かと言うとクルマの歴史的な価値とオークションの価格というのは別だと言う風に思ってます。勿論、全く関係ないわけではないと思います。ですが、例えばトヨタ博物館があのクルマをこれこれいくらぐらいすると言うのを市場価格に反映されては困るなと……歴史的な価値があるものと市場の価格が連動するというのはあると思うんです。

例えば値段の高い物の代表選手に上げられてるトヨタ2000GTがあるんですが、値段が上がる事自体は、あのクルマのスタイリングにあるとか当時の性能であるというものが、それなりに社会にインパクトがあっただろうし、かつ、今見ても良いものは美しいと言う風に見ていただけるというのはそれはやっぱり美術品といっしょで、時の流れに耐えるだけの力があるからそういう値段がついてるんだと思うんですよね。そこについては我々も嬉しいことだと思いますし、だけれども、だからといってそれが何億円だというのが適正かっていうのは我々も預かり知るところではありません。

一方でクルマの愛好家を増やすということでは適切な値段というのはあるかもしれませんし、それを超えた評価が付くことでクルマの魅力が伝わりにくくなるんだとしたらそれは問題だと思いますし、例えばクルマの魅力と全く関係ない所で、これを持っておくと後で得をするとか得しないとか、投機目的で買われてしまうのはクルマの文化とは違う話になってしまうので、そこは我々の口出しするところの話じゃなくなっちゃうんですよね……例えばバイオリンなんかでもストラディバリウスという名器になった途端、何億円になっちゃいますよね。クルマの値段にもまして凄い値段になっちゃってますけど、世間があの音をどのくらい理解できるかとかは別として、そのぐらいの価値が付くことで人の注目を集めることは確かだと思います。

─トヨタ2000GTが一躍有名になったのは、日本車で初めて1億円を突破したことですよね。

クルマの値段という物を介して、クルマに興味の無かった人にもああいうものには価値があるんだなということを知っていただくきっかけにはなったと思います。



─あと、これは僕も興味がある事なんですけど、最近は若い人が80年代90年代のクルマに興味持ってるんですよね、若い人がS13シルビアを初代シルビアだと思っていたなんていう笑い話もあるんですよ。(一同爆笑)そういう、若い人が80年代、90年代、最近だと『あぶない刑事』でF31レパードを見てレパードも人気がでてきたって聞くんですけど、80年代90年代のクルマに若い人が興味を持つというのは館長さんとしてはどんな印象ですか?

実は僕が前に東京に住んでた時の家のそばにも、そういう好きな方が住んでいらっしゃって、毎週のように家の前に多分20代くらいの方だと思うんですけど80年代の懐かしいクルマに乗って集まってたんですね。僕らは80年代に普通に乗ってたんで『え?』と思ってたんですけど、やっぱり違って見えるんだろうなと思うんですね。価値観が当時と今で違っているのも確かですし、僕も新車当時に見た目と、久しぶりに今見た目と違って、あれこんな小さかったかな?とかこんなに背が低かったかな?とかっていう自分の記憶とちょっと違う印象を持ったりするんですよ。

もっと広い目で見る事をやらないと、若い人がそういうクルマを面白い、新鮮に感じるという事自体も、いま僕らが捉えきることができないことを伝えているんだと、例えば市場調査だけでクルマを作りましたという事だけをやっていると見失ってしまう所がそこに隠れているかもしれないんですね。


▲注 「あぶない刑事」の劇用車レプリカで劇用車と同じ番号のナンバープレート隠しが付いてます

─ひょっとしたら後の世代の人が私たちがが全然気づいてなかった事に気付いてくれるとか……

たとえばクルマを作るときはいろんな制約とか条件があるわけで、もっと中を広くしないとお客さんから嫌われちゃうとか、乗り心地をよくしないととか、燃費も良くしないといけいないとか、そうすると……今、軽もものすごく中は広いじゃないですか。他所のクルマより狭かったら「売り」にならない時代ですよね。でも今スバル360に乗るとこんなに小さなかったのかなって、軽って昔こんなんだったんだなっていうくらいコンパクトで、確かに今の軽よりは狭いかもしれないけど、これで十分だったんじゃないのって思ったりもするんですよ。

─そうですね、今私の自宅の庭でバラして直せるくらい小さいですから(苦笑)

あのクルマはよく考えられてるし、僕も名車だと思います。ああいうクルマを本当にみんながあれぐらいでいいんじゃないかって思って、作ろうと思ったら作れると思うんですよ。今ってこういう時代なんだって思ってるのと、80年代とかもっと前の時代のクルマを良いと思ってる人たちのズレみたいなものっていうのは、ひょっとしたら、今だとミニバンじゃないと売れないだとか、中がこれくらいの大きさじゃないと売れないとか思っている事を、本当は違うかもしれないよっていう声かもしれない。



─私としてもありがたいお言葉ですね……税制や部品供給の改善などクラシックカーを取り巻く環境についてはこれからどう取り組まれていくんですか?

それも、交流会のあいさつで申し上げた通り繰り返しになりますけども、やっぱり声として届けるのが一番かなと思うんです。ですから僕も別に……ヨーロッパに住んでた事がありまして、その時に税制が国によって違う事も知りましたし、そもそもクルマのナンバープレートの交付の考え方自体も全然違っていたりして、例えばむこうだとクルマでは無くて人にナンバープレートが付く、一生同じナンバープレートが付くこともあるんですね。たとえばベルギーなんかそうなんですけど。

─私が外国で羨ましいと思っていて、出来る事ならいつか、ドイツに移住したいなと夢見てるんですけど、ドイツにはシーズンナンバーっていうのがあって車検の有効期間の分だけ払えばいいっていう考え方、これからレストアするからしばらく車検取らないから置いておくっていうとそのクルマはレストアが終わって車検を取るまでの間、税金は払わなくていいとか、あとオープンカーとか冬の間乗れないからって、春から夏の間だけ税金を払って乗るっていう制度があるって聞いた時にそういう制度って羨ましく、日本もそういう考え方してくれると嬉しいなと思うんですよ。中には一桁ナンバーのクルマでナンバー切りたくないからしばらく乗らないけど税金だけ払ってるっていう、そういうクルマに何か救済処置があったらなあって思うんです。

まぁ、それぞれの立場からの意見があるので、さっきいったように環境問題の立場の人は環境問題の事を考えないといけないですし、色んなクルマ、今社会問題で交通事故だって高齢者の方を含めてそれをどうするかとかそれも大きな話だし、そういった事も含めてどうすればいいんだろうねっていう中で、今おっしゃってることもあるかと思います。

─あと、部品供給についても交流会でお話されていましたけど、具体的に何かプランとかアイディアみたいなものはあるんでしょうか?

さっき、ロータスエランに乗ってる方とお話した時は彼らは結構部品を持ってらっしゃるんですね。それはなんで?っていったらそれはそういう愛好家がある程度いらっしゃって、限定されているクルマではあるけれども、このクルマは部品作ってもちゃんと売れるんだなといったら、あるテリトリーができちゃってるという事があるんですね。そういった意味でいうと人気のあるクルマだとかそういった事を大事にしようと思われている方のクルマが、そういう機運が盛り上がれば自然とそういったものを作るという機運も出来てくると思いますし、例えばその時にメーカーがその部品は直接は社会的な理由があって作れない部分があるけれども、そういった方にデータとか設計の情報をお渡しすることでそれを作り出すとかそういう風な事は考えられると思います。

─やっぱり取り組んではいるんですね、やっぱりそのクルマの台数が問題ですか?

やっぱりそういった事を求める声が大きいかどうかというのはあると思います。それは人の数かもしれないですし、クルマの数かもしれないですし。

─最近、私がちらっと聞いた話では東南アジアのほうで結構日本車のクラシックカーの部品が東南アジア経由で手に入るなんていう話を聞いてるんです。実際、先日小牧にニューズっていうトゥクトゥク専門店があるんですよ。そこの社長とお話した時に聞いたんですけど、試しに「これ、ベースはミゼットですよね?ミゼットをコピーしてずっと現地の人が作ってるという事は、ひょっとしてトゥクトゥクの部品でミゼットも直せるんですか?」って聞いたら、「直せますよ」っていうんですよ。だからもうミゼットに関してはトゥクトゥクの部品を使えば直るらしんですよ。

ええ~(苦笑)


▲このハンドル、オリジナルのDKA型ミゼットでも使えるそうです

─全部直りますよ?トゥクトゥクは全部職人さんの手作りだから、向こうの職人さんにいえば同じものを作ってくれるっていうんですよ。

ですから、それはある意味一つのヒントだと思うんですよ。要するにトゥクトゥクという形で必要性があるという人達や国があったからそれが残ってるわけですよね。同じような事が他のクルマでもいえるわけで、そういうボリュームが必要だなと思えば、ワンオフであっても残っていきますよ。みんがこれとこれはいいよね、残したいよねって思う人がいっぱいるとか、あるいはそういった別の形で必要性が残っているとかっていう風であれば物っていうのは残っていくと思うんですよね。

─埼玉の所沢に、THサービスの平野さんっていう元々マスタングに乗ってた方で来年はこのイベントにも出たいっておっしゃってるんですが、その方がマスタングを大学時代から乗っていて、インターネットで直接部品が買えるから今では、新車が丸ごと一台作れるくらい部品があるっていってるんです。我々の国産車の部品が何とかならないかっていう事になって、古い日本車は東南アジアにいけばまだ沢山走ってる国があるので、そこにあるんじゃないか?って色々調べてみたんです。どうも東南アジアで現地の人が独自に日本車の補修部品を……まぁトヨタの方にお話のするのもちょっと……コピー品の問題とか、その辺は色々とグレーな部分があるんですが……(苦笑)そういう社外品のリプロ品が手に入る今、東南アジアのメーカーに協力して作ってもらって、実際、私のセリカのウェザーも作ってもらって直したりしてるんですけど、場合によってはそういう所と手を組むっていうのもありうるんでしょうか?

今、当然法規をクリアしなきゃいけないことが昔のクルマはクリアできないですよね。そういう問題があるから、自動車メーカーとしては昔のクルマの部品を量産しますとはいいにくいところがやっぱりあるんです。ですからさっきいったマスタングの話だとか、あるいはもっと遡ってフォードT型だとかA型だとかの頃の部品だって今でも新車が組めるくらいの部品が売られてるらしいですけども、それはおそらくメーカーが作ってる物というよりは、どっかのサプライヤーが作ってるのがほとんどだと思うんですよ。そういった好きな人たちが、部品が入手できるようになっているのであればそれでいいんじゃないかという風に思うんですよ。ですから、当時のクルマを改変しない限りは今の道交法はクリアできないわけです。昔はなんでそれが許されていたかといえば、その時はそれで十分だと思われていた時代だから許されていたわけです。一旦、高いレベルの安全基準が決められた中で、それをさかのぼって、規制をクリアできてないクルマを作るわけにいかないんです。

そこは社会的な誠意として量産車を新車で作ってるメーカーの責任として、昔のクルマを新車で作るわけにはいかないという風に……そこだと思うんですね。だけども、例えばいろんなスタイリングだとかいろんな味わいを大事にされてる方々を我々も無視するわけにはいかないし、そういった人たちが自動車文化を支えている事も事実ですから、そういった事をなんとか出来ないかなという風に思い始めてるのが今だと思うんです。

トヨタ2000GTが今でも認められているのはもう50年経ったわけじゃないですか、50年の間にいろんな人が、いろんなクルマを見てきてそれでも『あのクルマ今でもいいよね』とか『美しいよね』って思えるかどうかっていうフィルターだと思うんですよね。それを超えて今でもみんながあのクルマ美しいよね、かっこいいよねという事自体に価値があると思うんですよね。そういった事は自分たちももうちょっと認めていくべきじゃないかなという風に思うから、今回50周年でトヨタ2000GTもいつもよりちょっと多めに走らさせて(笑)



─もう今年、大盤振る舞いですね、確か来週もヤマハのテストコースでトヨタ2000GTのイベントがあるそうですね。

ですからせっかく50周年という事ですので集まられて、ここでも11月かなイベントやりますので。そういった場を通じて50年前からこんな美しいクルマがあったよ、かっこいいクルマあったよという事を人に知ってもらう応援は我々もしていきたいです。



ちょっとした、質疑応答のつもりでいたのが思いがけず、60分にも及ぶインタビューになってしまいました。トヨタ博物館としてはクラシックカーの保存に取り組むばかりでなく、リプロ部品についても好意的に受け止めてもらえているというのは一人のクラシックカー愛好者としてリプロ品による部品供給に望みを託している筆者としてもとても大きな励みになりました。私事ながら、まさしく「免許を取る前からクラシックカーが好きな少年が、クラシックカーイベントで実際に動くクラシックカーを見て大人になって、クラシックカーオーナーになって自分でクラシックカーをレストアして、ついにはクラシックカーに関する文章を執筆するに至った」筆者にとって布垣館長の言葉は長年の苦労が報われた気分でした。

貴重なお時間を割いていただきました布垣トヨタ博物館館長、及びトヨタ博物館のスタッフの皆様には深い感謝の言葉を述べさせていただきたいと思います。

【取材協力】
トヨタ博物館
住所:〒480-1118 愛知県長久手市横道41-100
ご見学・お問合せ専用:0561-63-5155
代表TEL:0561-63-5151
公式サイト:http://www.toyota.co.jp/Museum/

[ライター/鈴木修一郎 撮影協力・写真/MS50クラウンオーナーズクラブ,赤倉久雄,鈴木修一郎]

外車王SOKENは輸入車買取20年以上の外車王が運営しています

外車王SOKENは輸入車買取20年以上の外車王が運営しています
輸入車に特化して20年以上のノウハウがあり、輸入車の年間査定申込数20,000件以上と実績も豊富で、多くの輸入車オーナーに選ばれています!最短当日、無料で専門スタッフが出張査定にお伺いします。ご契約後の買取額の減額や不当なキャンセル料を請求する二重査定は一切ありません。