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更新2023.11.22

世界初のEVドリフトカー、そこにはクルマの楽しみを追求するストーリーがある

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中込 健太郎

春めいた日が混じってきた頃、カレントライフ編集部から「プリウスのEVを見に行きませんか?」という誘いがありました。一瞬なんだか「何か特別なこと?」と思ってしまったのは事実です。古いクルマに触れることも多かったりするので、「純然たる内燃機関のクルマかそれ以外か」でなにか勝手に区切っている傾向がありました。そういう基準からすると「プリウス=ハイブリッドカー≒電気自動車」のような感覚に、正直一瞬なり、特別なことではないような気を起こしてしまったのです。しかし、それは私の短慮というものであります。

聞けば、ドリフト競技に出場するために開発されたマシンだそうです。エンジンとモーターで美味しいところを分担して走るハイブリッドカーと、電気(モーター)だけで走るEVというのは「ずいぶん話が刻んでいるな」と思ったりしたものですが、全く違うものです。(行っみたら、その安易な予感がとんでもない見当違いだということがわかるのですが。)そしてイベントをすると毎回大変盛り上がるドリフト競技に出るプリウスも、ドリフト競技に出るEVも大変珍しいではありませんか。そのコンバートの話も興味深くもあり取材させていただくことが、いつしかとても楽しみになっていたのでした。

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プリウスという存在の妙



「身近なクルマだからこそ意味があるのです」
横浜市都筑区の株式会社オズコーポレーション代表取締役の古川治さんはそうおっしゃいました。長いことクルマのカー用品やドレスアップなどの自動車のアフターマーケットで事業を展開されてきたのだとか。ただ、個性を表現する、より自分の使い方にあった機能を付けるアフターマーケットの意義はあるものの、自動車業界全体がエコに対する問題意識のある中、必ずしもエコではないばかりか、時には逆行するような製品の販売やカスタムをすることもしばしば。もっと真剣にエコを考えながら、しかし、クルマの魅力を多くの人に身近に感じてもらうような仕事ができないかということで、EVでモータースポーツに参加することを思いついたのだとか。

数あるモータースポーツの中でドリフト競技に照準を合わせたのは、現状の技術水準において、「短時間決戦である」ということは大きな理由でした。そしてEVなら、いきなり大きなトルクが発生できることもドリフトでは好都合でした。

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しかし、いざ開発を進め、どのクルマをベースにマシンを作ろうか、ということでかなり悩んだと言います。既存の参戦マシンとは別のクルマがいい。しかもできるだけみんながよく知っているクルマで何かないか。ちょうどそのとき普段のアシで古川さんご自身がプリウスに乗っておられていて「このクルマならみんな知ってるのではないか」ということでプリウスをベースにすることを決めたというのです。

プリウスというとどこか自動車趣味の対極にあり、ともするとクルマの楽しみの追求の真逆を向いたクルマのように受け止められかねない、少なくともモータースポーツの匂いのするクルマではなく、みんなが知っているクルマという立ち位置にこそ、ベース車として選んだ理由の本質があったのかもしれません。

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実際は「案ずるより産むが・・・相当大変!」なプリウスのEVコンバート。



「特に大変だったことは?」
やはり、この質問はさけられないだろう思い尋ねてみると、にこっと笑って「うーん、全部」とおっしゃる古川さん。

ドリフト競技に出ることを想定しているのでFFをFRレイアウトに変更。そうすると当然トランスミッションなども元々のものは使えず、新たにセッティングしなければなりません。ステアリングも使えませんので専用に設計し直しです。そしてハイブリッドの仕組みが介在するところはすべて要らないので「こんなことなら、作業はただのガソリン車からコンバートした方がよほど楽」なのだそうです。それでも面白いことに、ホイールベースが実はFRモデルのチェイサーとほとんど同じなのだとか。ですので、チェイサーの部品がかなり流用できたそうです。

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目標はこのクルマが勝つことではなく「敵ができること」



今はまだ未完成の状態で、走れてもデモンストレーションの域を出ないレベルだと言うドリフトプリウス。バッテリーも容量が過剰で重たい上に、約400馬力という出力もまだまだ改善の余地があるレベルなのだとか。なので来シーズンに向けて競技に出られるレベルまでもっていきたいというの古川さんの目論見なのだといいます。

そして最終的な夢は「このクルマがしっかりと走れるようになり、このクラスにライバル車が現れること」だと話してくださいました。そして一つのカテゴリー、クラスとしてEV同士で戦い、切磋琢磨できる環境ができてこそ、クルマの魅力を発信できるのではないか。そして、そうしなければ、ファンが見てくれて応援してくれて、「クルマって楽しいんだ」とわかってくれるには至らないのではないか。古川さんはそう話してくださいました。

高周波のモーター音を放ちながらドリフトコースでひときわ異彩を放ち、ギャラリーから声援を浴び、注目される日が来るのが待ち遠しい限りです。

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ふるさとは遠くにありて想うもの



古川さんとお話をしていて気づいたのは、ハイブリッドカーというもっとも最近アップデートされたクルマ「ハイブリッドカー」と、その発生の起源とも言える「EV」の違いは想像以上に遠いということであり、しかし、だからこそその間を通わせることに意義があったのではないか、ということです。なんとなく、ふと「ふるさとは遠くにありて想うもの」という言葉が頭をよぎったのでした。

だれしも環境に悪影響を及ぼしたいのではない。だから電気自動車なら悩まなくてよいことも多いのではないか、ということは多くの人が気づいているのです。しかしその良さがわかるからこそ、今までの自動車から少しずつ変化を遂げ、電気自動車に近づけた結果が今のハイブリッドカーのカタチ、とある面においていえるのではないか。そんな風に想ったのです。しかし、ふたを開けたらその違いというのは望外大きく、ある種「こんなはずではなかったのに」という面や、「それでも従来のままではいけないのだ」という一面もあったのは事実。EVを目指してはいたけれど現実的な進化を遂げてできたカタチこそ、ハイブリッドカーなのではないでしょうか。そしてそれは、自動車を研究し開発してきた人たちの良心と情熱のぎっしりとつまった、現時点での結晶に他ならないのです。幼い頃のふるさとでの思い出は楽しいものばかり、あのころはこんなはずではなかったのに、と想うこともあるでしょう。EVへの希望とはそんなものに近いのではないでしょうか。だからそれを想いつつ現実的に実現し得たものこそがハイブリッドカーのように想うのです。

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しかし、このプロジェクトは「想うだけでよいのか?」ということなのではないでしょうか。その身近な存在になったハイブリッドカーのその中の代名詞とも言える「プリウス」を通して、そのある一つの理想像でもあるEVを構築し、もっともメカニカルでエモーショナルなクルマの魅力を表現できるマシンを作り上げたともいえるのではないか、そんな風に感じたのです。

純粋にクルマに期待する性能や魅力を「想いの根底に背かず」完成させたようなこのEV化されたプリウス。「想うだけじゃね!」そうにんまりと、逆にクルマ好きをたしなめるようなそんな雰囲気すら感じたのです。こういうクルマがでてきたからこそ、クルマはまだまだこれからが面白そうだ。そんな希望に満ちたマシンであり、プロジェクトだと思いました。

今後もこのプリウスから目が離せそうにはありません。

取材協力:
株式会社オズコーポレーション
http://www.o-z.co.jp/

[ライター/中込健太郎 カメラ/CL編集部]

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