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更新2017.07.10

度肝を抜かれたクルマも!日本に生息する希少なクラシックカーが、ノリタケの森に集う

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鈴木 修一郎

前回に引き続き、第5回ノリタケの森クラシックカーフェスティバルのレポートをお届けします。カレントライフなのにドイツ車のレポートが無いじゃないか!という読者の皆様、お待たせしました。ここからはドイツ車をメインにお届けします。


▲BMWイセッタ

以前ツイッターで「意外とかわいいドイツ」というハッシュタグで、「質実剛健」「厳めしい」「荘厳」というイメージの強いドイツで、時折そういうイメージとはかけ離れたドイツの可愛い物を紹介しようというツイートが在独邦人の方から流れてきたのですが、筆者にとっての「意外とかわいいドイツ」はやっぱりこれではないでしょうか?


▲ついにポルシェ911ターボフラットノーズもクラシックカーイベントのエントリー対象になったかと思うと隔世の感を覚えます



ポルシェ911といえば、筆者も含めてやっぱりあのカエル顔でなければという愛好者も多いとは思いますが、やはりスピードにとり憑かれた者にとってはあの愛嬌ある顔を捨ててでも空力とスピードを追い求めたくなるものがあるのでしょう。


▲木漏れ日の下の1962年ポルシェ356B

シルバーアローの伝説もあってやっぱりドイツ車にはシルバーが似合います。356も末期になるともはやVWの派生モデルから911の原型となるモデルへ移行しているのが見て取れます。



ポルシェ356というと最近ではTVアニメ「名探偵コナン」の「ウォッカとジン」のコードネームを持つ黒づくめの2人が乗っているクルマで知った人も多いのではないでしょうか?ちなみに原作者の青山剛昌先生はクルマが好きなだけでなく、ご実家が自動車整備工場を営んでいるそうです。


▲1971年型ポルシェ911タルガ

356から911に移行したことで一旦ポルシェから完全なオープンモデルは無くなってしまうのですが、冬季は日照時間の短いドイツではオープントップの需要も多く、ボディ剛性を保ててオープンエアモータリングが愉しめるモデルとしたルーフパネルが外せるデタッチャブルルーフが考案され、やがてポルシェの中の一つのモデル名称だった「タルガ」は「タルガトップ」としてデタッチャブルルーフの車両を指す名称にまでなります。



このタルガのオーナーの方とお話したところ、ポルシェはエンジンの脱着が容易なため他のモデルや年式のエンジンに載せ替えられてしまうことが多く、それゆえにヴィンテージモデルのポルシェ911の評価基準にエンジンが車両の年式、モデルと一致したエンジンが載っているかどうか、所謂「マッチングナンバー」(ちなみに、年式、グレードが全くの同型モデルのエンジンであればマッチングナンバーの範疇に入るそうです)が重要視されるとのことです。このタルガはマッチングナンバーのフルオリジナルだそうですが、ヘッドライトとステアリングホイールは前のオーナーの趣味でRUFの物に交換されているとのことです。(左が本来のレンズ)



ところでタルガというと筆者の場合、よく文房具や図鑑の写真の被写体で見かけた、シルバーに赤青のストライプの入った911ターボタルガのイメージが今も残っているのですが、あれは純正色でそういうカラーリングが純正で設定されていたのか聞いてみたところ、あのストライプもオーナーが「マルティーニ」のチームカラーを模してカスタマイズしたものとのことでした。最後に、このタルガのオーナーは「僕はフルオリジナルが好み」とした上で「フルオリジナルとかマッチングナンバーとか気にせずポルシェは楽しく走らせることが出来ればそれでいいんです」とおっしゃっていました。


▲1965年型メルセデスベンツ230SL(W113)。

所謂パゴダルーフです。実はこの当時で既に対人衝突の安全要件を満たすなど流石はメルセデス、安全面においてはかなり先行していたようです。まだ暑くなりすぎていないこの時期のオープンエアモータリングはさぞかし爽快なことでしょう。


▲1958年型メルセデスベンツ220S(W180)

それまでの暫定戦後型の旧態化した戦前型のデザインからフェンダーとボディが一体になった新型に刷新されたことで「ポントン」と呼ばれているモデルです。日本ではその風貌からダルマベンツと呼ばれています。愛3ナンバーということは新車当時から日本へ出荷されたウェスタン自動車(ヤナセ)の正規輸入車だと思われますが、外為法で自動車にも輸入制限があり、1954年西ドイツ(当時)のアデナウアー首相との会談をしたことでメルセデスの購入を希望した時の首相、吉田茂総理ですら在任中にメルセデスを購入する事が出来ず、輸入制限が無くなったあとの1963年にヤナセの梁瀬次郎社長の計らいもあって、ようやく念願のメルセデス購入に至ったというあたり、この車両を当時所有していた人はよほど裕福な人か要職に就いていた方なのかもしれません。



実はこのポントンには、メルセデスにとって記念すべきメカニズムが採用されています。実はこのW180型こそ、ミスターセーフティの異名を持つエンジニア「ベラ・バレニー」がダイムラーベンツに招聘された1940年から研究し続けた、「自動車の衝突時の安全性の確保」の一つの答えとして、フロントガラスを前方脱落式にし、フロントセクションとリアセクションが潰れることで衝撃を吸収しキャビンを丈夫に作ることで、衝突安全性を確保するというアイディアを最初に取り入れた車両でもあります。

このアイディアはフィンテールと呼ばれる次期型のW111型で完成し特許番号854 157を取得しますが、同時に自社の理念に従い衝撃吸収ボディ構造の普及を望み特許を開放したといいます。

ちなみに、同時期ボルボも3点支持シートベルトで特許を取得しますがやはり自社の理念により特許を開放しています。


▲ベラ・バレニー 天才の安全史


▲Mercedes-Ponton-Crash-left

そして今回度肝を抜かれた出展車両もご紹介します。


▲なんと1910年型ロールスロイス・シルヴァーゴーストです

今回のイベントの中でも一際別格のオーラを放っていました。



シルヴァー・ゴーストというとAX201の登録ナンバーを持つ12号車のシルバーの個体が有名かと思います。本来は40/50HPというのが正式なモデル名で、王立自動車クラブを設立したクロード・ジョンソンが12号車を購入後シルバーに塗装し、車内からは時計の音しか聞こえないという静寂なエンジン音にボンネットに立てたコインが倒れないともいわれる振動の少なさで、音も無く霧の夜のロンドンを走り抜ける姿から自身愛用の12号車に「銀色の幽霊」(シルヴァー・ゴースト)という愛称を付けたということですが、当初は「幽霊」(ゴースト)という愛称を良く思わなかたロールスロイスも、この登録ナンバーAX201の12号車が様々な耐久テストでその堅牢さと信頼性に加えて静寂性で名声を獲得すると、ついにロールスロイス社は40/50HPモデルのブランド名として正式採用するに至り、以後ファンタム(亡霊)、レイス(霊)、クラウド(雲)シャドー(影)等、静寂性を象徴するように実体のない物を好んでモデル名に使用するようになります。その後AX201の登録番号の個体は80万km以上走行した状態でロールスロイス社が買い戻し現在も走行可能な状態で所有しているとのことです。


▲ステアリングホイール上についているレバーはディストリビューターの進角調整レバー

ポイント式点火のクラシックカーに乗っている方の中には、ディストリビューター内のガバナ進角の不具合によるミスファイヤを経験した方もいるかもしれませんが、20世紀初頭のガソリン車はエンジンの始動時や走行速度によって手動で点火時期の進角を調整しながら走っていたためこのような装置が付いています。



ところでこのシルヴァーゴーストですが





近くでよく見ると、塗装やブラス製パーツにくすみが有ったりで、必ずしも博物館に飾ってあるようなミントコンディションではなく相応にヤレが出てます。

これこそがこのシルヴァーゴーストの真骨頂。オーナーの方曰く、

「博物館に飾ってあるようなクルマはダメだ。いくら動態保存といったって道路を走れないんじゃ自動車の意味がない、このクルマでイベントに出るときは必ず自走で行く」

との事で、この日も奥様を乗せて熱海から名古屋まで東名高速(!)を走ってきたそうです。


▲このエンジンは現在もなお高速道路を走行可能な性能を有しています

シルヴァーゴーストのメーカー公称値の最高速度は105km/h、80km/hくらいの速度なら高速道路も走行可能だそうです。



20世紀初頭の自動車には不釣り合いな(?)カーナビの液晶モニターにデジタル表示のトリップメーター等、オーナーにはこのシルヴァーゴーストをガレージの飾りにする気など毛頭なく、100年前の自動車といえども今もなお運転して道路を走らせるために所有しいることがうかがい知れます。

ロールスロイスといえばアラビアのロレンスことイギリス軍のトーマス・エドワード・ロレンス中佐が晩年「一番欲しい物は?」という質問に、「ロールスロイス・シルヴァーゴースト1台、そして一生分のタイヤとガソリン」(頑丈で長く愛用できる)と答えたというエピソードや、「ロールスロイスはオーナーより長生きする」「ロールスロイスは孫の代まで乗れる」 果ては、あるロールスロイス専門店の社長の「ロールスロイスの理想的な保管方法は毎日普通に乗る事です」といった言葉を体現している1台ではないでしょうか。

今年で5回目となる比較的新しいイベントですが、ロケーションの良さもあって大盛況でした。中には知らずにノリタケの森に来てあのレトロなレンガ造りの風景の中に工芸品のような往年の名車が並んでいるのを見て驚いた方もいる事かと思います。台数こそ少ないですが、その分じっくりクルマを眺めることができ、ただ風景の一部としてクラシックカーを愉しむことが出来るという点では、前週のトヨタ博物館クラシックカーフェスティバルとは違ったアプローチで、クラシックカーという文化をクルマに詳しくない方にも馴染んでもらうことができるイベントではないでしょうか?

[ライター・カメラ/鈴木修一郎]

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