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更新2017.08.27

各国要人を守り80年以上!メルセデス・ベンツの防弾車両「MB-Guard」をミニカーから紐解く

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北沢 剛司

MB-Guardとは、メルセデス・ベンツがテロなどの攻撃から乗員を守るために製作している防弾車両のブランド名です。日本への導入計画はありませんが、実はドイツの自動車メーカーはこのような防弾車両を市販モデルとして用意しています。例えば、メルセデス・ベンツは[MB-Guard]、BMWは[BMW Security]、アウディは[Audi Security]というブランド名をそれぞれ持っています。

ドイツのメーカーは防弾車両を市販している


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▲写真はメルセデス・ベンツが製造する防弾車両[MB-Guard]の顧客向け資料とプレスキット。BMWとアウディも同様の防弾車両をラインアップしていて、ホームページで詳細を知ることができます。

防弾車両といっても、外観から判別できる点は極めて少なく、防弾ガラスの厚みやタイヤ/ホイールに違いがある程度。ほとんどの人は普通の車両と区別できないと思われます。しかし、そのつくりはノーマルとはまったく別物。銃撃を受けても客室内に貫通しないよう強化されたボディと防弾ガラス、タイヤを撃ち抜かれても走行を続けられるランフラットタイヤ、爆発の衝撃に耐える燃料タンク等々。その姿はまるでスーツの下に防弾チョッキを着込んだボディガードのようです。もちろん、それらの車両は1台1台手作りで製造され、販売もメーカーの特殊車両部門が受け持ちます。

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80年以上の歴史を持つメルセデス・ベンツ防弾車両



なかでも昔から国家元首や王侯貴族によって愛用されてきたメルセデス・ベンツは、1928年に460ニュルブルクで初の防弾車両を製作して以降、80年以上にわたって自社で防弾車両を製作しています。そして初期の防弾車両として有名な車両が、昭和天皇の御料車として知られるメルセデス・ベンツ770(W07)です。

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「グロッサー・メルセデス」の異名をとるメルセデス・ベンツ770/770Kのなかでも、美しい溜色に塗られた御料車はあまりにも有名です。現在はドイツ皇帝ヴィルヘルム2世のメルセデス・ベンツ770Kとともに、シュツットガルトのメルセデス・ベンツ ミュージアムで実車を見ることができます。

第二次大戦後、「グロッサー・メルセデス」の再来と呼ばれたモデルが、1963年に登場したメルセデス・ベンツ600(W100)です。国家元首や王侯貴族クラスの特別な顧客のためにつくられたメルセデス・ベンツ600には、当然のごとく防弾車両が製作されました。なかでも1965年のエリザベス女王のドイツ訪問に合わせ、ドイツ政府のリクエストにより製作されたメルセデス・ベンツ600ランドレーの防弾車両は、ノーマルよりもルーフラインが高くなっていました。これはエリザベス女王が帽子を着用したまま車内に乗り込めるよう特別に設計されたもの。その後製作されたメルセデス・ベンツ600プルマンおよび600ランドレーの防弾車両にも、この高いルーフラインを持つ車両が存在しています。

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これはノーマルのメルセデス・ベンツ600プルマン。ルーフラインは比較的低めです。

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こちらはメルセデス・ベンツ ミュージアムに展示されている、メルセデス・ベンツ600プルマンの防弾車両。ノーマルの600プルマンに比べてルーフが高くなっています。

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▲TSM MODEL 1/43 1965 Mercedes-Benz 600 Pullman Landaulet Pope Paul Ⅵ(品番 TSM124352)

こちらはTSM製の1/43メルセデス・ベンツ600ランドレー。バチカンに納入されたローマ法王専用車をモデル化したもの。ローマ法王の玉座が再現され、ルーフラインが高い仕様になっています。

ロシアの歴代大統領が愛用するS 600 プルマン・ガード



メルセデス・ベンツ防弾車両の代表格は、Sクラスをベースにした[S-Guard]です。なかでもW140型Sクラスをベースにした防弾車両は、コンチネンタル製の特殊なランフラットタイヤを装着するため特徴的な外観を備えています。このタイヤはリムから大きくはみだしていたため、同時期にラインアップされていたW124のE 500のように、前後のフェンダーがワイド化されていたのです。また、フェイスリフト後においても、前期型のバンパーを使用していたことも特長のひとつ。大柄なW140のボディをワイドフェンダー化したこの防弾車両は、歴代S-Guardのなかでも随一の迫力。スタイリング面においても印象深いモデルとなっています。

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▲Dip Models 1/43 Mercedes-Benz S500 PULLMAN GUARD (W140)(品番 GON140)

1995年には、このW140に純正リムジンのプルマンが製作され、その防弾車両が初代ロシア大統領となったエリツィン大統領の専用車として導入されました。ホイールベースはSクラスのロングモデルから1m以上延長され、全長は実に6213mmに達しています。さらに全高も高くなったこのモデルは、まさにメルセデス・ベンツ600プルマンの再来と呼べるモデル。大統領専用車がソビエト時代のZIL(ジル)からメルセデスに変わったことで、名実ともにソビエト連邦の終焉を感じさせたのでした。

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▲Dip Models 1/43 Mercedes-Benz S600 PULLMAN GUARD (W220)(品番 GON220)

ロシア大統領がエリツィン氏からプーチン氏に代わり、大統領専用車もW140からW220ベースのS 600 プルマン・ガードに変更されました。W220ではW140のようなワイドフェンダーが採用されることはなく、ノーマルホイールと同じ意匠を持つホイールにミシュランPAXタイヤシステムが装着されました。W140に比べて外観は大人しくなりましたが、防御レベルは狙撃ライフルや手榴弾での攻撃に耐えられるもので、より強固な装甲となっています。

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▲Dip Models 1/43 Mercedes-Benz S600 PULLMAN GUARD (W221)(品番 GON221)

2008年に新たに大統領となったメドヴェージェフ氏の時代に導入されたのが、W221のS 600をベースにしたS 600 プルマン・ガード。ノーマルに比べて高められたルーフラインは、往年の600プルマン防弾車両の伝統を受け継いでいます。
2015年には現行のW222をベースにしたMercedes-Maybach S 600プルマンが発表され、そのガード仕様の製作も進んでいると思われます。しかし、次期プーチン大統領の専用車はロシア製のリムジンになるといわれており、W222のS 600プルマン・ガードがどのようなカタチで姿を現すのか、とても気になるところです。
ちなみに大統領専用車を製品化したこれらのミニカーは、バックにそれぞれのロシア大統領の顔写真が使われています。映画の主人公がパッケージ化される例はよくありますが、ロシアの大統領がミニカーのパッケージに登場するというのは、かなり独創的な内容といえるでしょう。

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▲Dip Models 1/43 Mercedes-Benz G 55 XXL (W463)(品番 GON463)
ソビエトおよびロシアのミニカーを製品化しているDip Modelsでは、Gクラスのエクストラロングホイールベース仕様であるXXLを使ったロシアの大統領警護車両も製品化。パッケージ背面の写真には、W140のS500 プルマン・ガードの姿が見えます。

ちなみにMB-Guardの最新作は、2016年に発表されたMercedes-Maybach S 600 Guardです。ドイツ連邦政府機関により防弾保護レベルVR10の認証を受けたこの車両は、S 600 Guardが持つ防弾保護レベルVR9を超えたもの。グレネードや手榴弾での攻撃に耐え得る設計で、民生用車両としては現時点で最高の防弾保護レベルを備えています。

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日本で見られる警察車両のS-Guard



日本では、2016年5月に開催された伊勢志摩サミットで、各国首相が最新のメルセデス・ベンツS 600 Guardに乗車していたことが注目されました。これは議長国である日本がドイツから輸入したもので、北海道・洞爺湖サミットや九州・沖縄サミットの際にもS-Guardが使われていました。

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▲京商 1/43 Mercedes-Benz S 600 Guard (V221) Black(品番 No.03632BKS)

S-Guardの外観上の特長は、フロントフェンダー左右にフラッグポール取り付け用の穴が設けられていること。そして強固なボディシェルを形成するため、スライディングルーフを装備しないことなどが挙げられます。

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▲RAI’S 1/43 Mercedes-Benz S 600 (V221) VIP GUARD POLICE CAR 2008(品番 H7430816)

2008年の北海道・洞爺湖サミットの開催に併せて、警視庁をはじめとする複数の県がS 600 Guardを導入しました。要人警護用として使われるこの車両は、グリル内に赤色灯を装備するほか、マグネット式の回転灯を使用しているのが特長です。覆面パトカーのように反転式回転灯を採用しなかった理由は、ルーフに穴をあけるとMB-Guard特有の強固なボディ構造が失われるため。
1/43ミニカーでは、日本のレイズが警察本部警備部要人警護車両をモデル化。写真の1灯タイプに加えて、2灯タイプも製品化されています。

防弾車両のノウハウが活かされるGクラス



メルセデス・ベンツでは現在、防弾車両としてセダンボディのS-Guard、SUVのGLE-GuardおよびG-Guardをラインアップしています。なかでもGクラスをベースにしたG-Guardの装備は、ノーマルのGクラスにもフィードバックされています。

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▲G-Guardの顧客向けパンフレット。防弾車両にも専用カタログを用意していました。

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▲以前つくられていたG-Guardのパンフレットは、左側にカタログ、右側に仕様装備を解説した書類をセットにした構成。

現在のGクラスに装着される幅広タイプのオーバーフェンダーは、当初はG-Guardの専用装備でした。2003年にG 55 AMGに採用されてから次第に他のモデルにも採用され、現在G 350 dにも標準装備されているのは周知の通りです。また、2014年に価格8,000万円で限定発売されたG 63 AMG 6×6の足回りにもG-Guardの技術が活用されています。特別装甲を施したG-Guardの車重は4トン以上に達するため、足回りには専用部品が使われています。G 63 AMG 6×6の車重も3850kgという重量級のため、G-Guardの足回りが最適だったのです。

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▲Spark 1/43 Mercedes-Benz G 63 AMG 6×6(品番 S1069)

以前、IAA(フランクフルト・モーターショー)の会場で何度かG-Guardの実車に触れる機会がありました。通常のブースとは別に設けられたラウンジは、基本的には招待客のみが入ることができるエクスクルーシブなもの。内部にはG-GuardやS 600 プルマン・ガードなどの実車展示に加え、着弾テストを行った防弾ガラスの展示もありました。そんな特別な空間のなかで展示されていたG-Guardのドアを開閉させてもらったところ、鉛のような重さに驚きました。ドア自体に特別な装甲が施され、さらに分厚い防弾ガラスが装備されているので当然ではあるのですが、意識して開閉しないと操作できないという意味ではまさに金庫の扉のよう。乗員を外部の攻撃から守るクルマであるだけに、ドアの開閉自体に儀式があるのだと感じました。

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▲G-Guardのカタログには専用装備が数ページにわたって解説されていました。

G-Guardの外観上の特長は、フロントウィンドウ周りのAピラーの強化と観音開き式のリアゲートです。大幅に強化されたAピラーはノーマルとは別物の太さとなり、ボディシェル自体も大幅に強化されています。また、片開き式から観音開き式に変更されたリアゲートにも理由があります。それは単に重量が重すぎるだけでなく、片開き式に比べて素早く開閉することが可能で、なおかつ非常時には盾として使うことも想定しているのでしょう。

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このようにユニークな内容を備えたMB-Guardの車両は、テロや犯罪に使われる可能性があるため日本では導入されていません。そのため実車を日本で目にする機会は、警察の要人警護車両を除けばほとんどないのが実情です。しかし、外部の攻撃から乗員を守るという目的のため、独自の保護技術を80年以上にわたって進化させていることはとても興味深いものです。そしてメーカー自ら1台1台製作している真のハンドメイド車両としてもエクスクルーシブなモデルです。普通には手に入らない車両だからこそ余計に憧れてしまう。そんな性分のクルマ好きにとって、MB-Guardはたまらない存在といえるでしょう。

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