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コラム

更新2018.11.07

失ってはじめて良さに気づく…?非凡な凡庸さをもつ小型・中型セダン

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鈴木 修一郎

筆者が関わっているイベント運営やプライベートで頻繁に交遊している友人の1人が、最近突然クルマを衝動買いし、そのうちオーナーインタビューでもお願いしようかと思っているのですが、そのきっかけとなったのが我が家の自家用車の日産クルー。

自宅へ送り届けるためにクルーに乗せた際、クルーというより5ナンバーの箱ボディの4ドアセダンそのものに興味を持ったようで、乗り心地やどっしりとしたスタビリティや、スポーツカーとは違う出足のレスポンスはソフトで後半から湧き出る、後席のパセンジャーに加速Gを感じさせない加速トルク。何より、ドライバーに負担を与えないドライビングポジションに酔いしれたようです。

税金や燃費以上の価値がそこにはある?



▲納車されたその日のクラウンの画像が早速筆者のラインに送られて来ました

その友人は、それまで未使用新古車の軽バンに乗っていたのですが、まだローンの完済も初回の車検も通してないにも関わらず。「鈴木さんみたいな5ナンバーFRの法人用セダンが欲しい」と言い出し、つい最近になって公用車のようなGS151型クラウンセダンを購入してしまいました。(黒のフェンダーミラーなのでもしかしたら本当に公用車か社用車の払い下げかもしれません)。

税金や、燃費(正直90年代の6気筒2Lエンジンの燃費はクラウンのエコターボでも12km/Lは走る現在からみるととても褒められたものではありません)の維持費、実用性や積載能力を考えると、コストパフォーマンスでは軽バンのほうがよいんじゃないかという気もするのですが、当人に聞いてみると「たしかに大きな荷物は沢山乗るし、車内に布団をひいて車中泊もできるんだけど、姿勢が垂直でシートが固くてペダルを上から踏みつける形になるから、長距離では乗りづらい」とのこと。その上その友人は足を悪くしており、長時間足に負担がかかると痛むため、「4ドアセダンのシートポジションの楽さを知ったら、税金とか燃費の事とかどうでもよくなった」とのことでした。また、クラシックカーの値段が暴騰している昨今。いよいよ1990年代のクルマも無関係でいられなくなり、S150系クラウンセダンという、最後の真四角のコンサバティブなクラウンらしいクラウンともなれば、それが数十万円で買えるのも、今が最後かもしれないというのも最後の一押しになったようです。

あと、意外な話ですがご家族の送迎で、軽バンの後部座席では乗り降りに踏み台を使うそうで、これが一般的なセダンやステーションワゴンでは必要がなくなり、実はハイルーフのバンやトールワゴンが必ずしもバリアフリーというわけでもないなど、バリアフリー仕様の福祉車両という触れ込みのJPNタクシーが、実際の現場ではあまり評判が芳しくなく、わざわざ中古でコンフォートやクラウンセダンを調達している事業所もある(実際にプロパン仕様のコンフォートの中古車価格は高騰しています)という話も納得がいきます。

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4ドアセダンこそ「必要にして十分」な1台


クルマを選ぶ基準が、燃費や価格やもとより、乗車定員や室内高や積載量ばかり気にするようになって、ミニバンやトールワゴンばかりになってクルマは冷蔵庫か?と言われるようになって久しい昨今。

気が付くと昔は普通に走っていた小型・中型の4ドアセダンは路上からすっかり姿を消し、中でも5ナンバーボディの小型セダンはもはや絶滅危惧種、各クラスの4ドアセダンをフルラインナップしていたトヨタも、ついにマークXがカムリと統合という形でブランド廃止。アリオン・プレミオも、カローラの大型化で(まだ3ナンバーにボディ拡大の可能性も否定できないようです)こちらもブランド廃止の可能性が濃厚のようです。


▲コロナマークⅡから続くマークXもいよいよ最期の時が近づいています

「必要にして十分」という言葉がありますが、4ドアセダンを言い表すのにこれほど相応しい言葉も無いと思います。個人的な印象ですが、大家族が大人数で移動する場合や、沢山レジャー用品を積んでアウトドアを堪能するという目的でもない限り、一般家庭でミニバンやトールワゴンを使う必要は無いという気もします。

凡庸、中庸の良さとでも言えばいいのでしょうか。大きすぎず、小さすぎず、軽トールワゴンのように規格内でいっぱいいっぱいの大きさのボディを載せてぎゅうぎゅう詰めの小型エンジンで目いっぱい引っ張るわけでもなく、かといってフルサイズモデルのように有り余るパワーを持て余すわけでもなく、それでいて大人4人が乗るには十分な快適性を持っていて、込み入った路地でも取り回しが楽。むしろ、適度にヘッドスペースを確保している4ドアセダンというのはヘタなトールワゴンやミニバンよりも体感的な圧迫感が無く快適ですらあります。

独立したトランクルームを持ちラゲッジスペースと完全に切り離されていることで、他人から荷物を見られる事も無く、リアクォーターピラーで後部座席のパセンジャーの顔が外から見えなくなり、プライバシーの確保にもつながります。タクシーやショーファーカーでは今なお4ドアセダンが好まれるのは、この後部座席のパセンジャーの秘匿性を確保できる事になると言ってもよいでしょう。

またボンネットとトランクが独立しているセダンのボディ形状ならではなのですが、前後左右の窓ガラスがドライバーの顔に近く、ピラーやサッシの数が少ないため死角が少なく、ボンネットとトランクの四隅が車両感覚をつかむための目印になるため、車庫入れの目視がしやすいという利点があります。最近はバックモニター付きのクルマが増えて、建前上「必ず目視による確認をしてください」という注意書きがありますが、運転席から遠く離れたバックドアの小さなそれもスモーク入りの窓ガラス越しに見るより、広角レンズのカメラ越しに見るモニターのほうがよっぽど可視範囲が広いという有様です。

凡庸・中庸こそ最高の一品の証



セダンのようにエンジンルームが独立していれば、フロアスペースに余裕が出て踏み間違いを起こしにくいペダルレイアウトにしやすくなります。実際、最近のマツダ車がロングノーズなのはブレーキペダルとアクセルペダルをオフセットさせてアクセルペダルはオルガンペダルにすることで踏み間違いを防ぐという意図があるようです。スペース効率を優先してペダルをぎゅうぎゅう詰めにして、見切りが悪いクルマを作って、カメラとモニターを付けたり、衝突回避装置をつけるというのも本末転倒な話です。

また、重量配分が適正でバランスとれたハンドリングに、低重心ボディですから時にはスポーツカーの様なドライバビリティを愉しむ事が出来るのもまたセダンならではでしょう。とくにフルサイズセダンの場合、「要人を安全に送迎する」「警察・警護車両に使用する」という用途上、緊急走行時は並みのスポーツカーに負けない動力性能が求められることすらあります。


▲知る人ぞ知るトヨタコンフォートGT-Z、セダンにはこういう隠れた一面も…

また、長いボンネットがあるということは当然、衝突時のクラッシャブルゾーンを確保する事も可能になります、あるドイツ在住の漫画家のエッセイによると、アウトバーンを走行するドイツでは日本のような1.5ボックスのトールワゴンはクラッシャブルゾーンが少ないという印象からあまり好まれないとありました。



しかし、3ボックスセダンの一番の魅力は「飽きが来ない」ということに尽きるでしょう。クルマをはじめて買う人はクラウンを買ってはいけない、メルセデスベンツを買ってはいけないという話があります。この2車はおおよそ不満点になる部分を取り去っているため、他のクルマを愉しむことを知らないまま、愛車の遍歴を終えてしまうというものです。凡庸、中庸というのは一見、つまらない事に思えて、道具としては気が付くと手足に馴染んで飽きの来ない最高の一品でもあります。

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失ってはじめて気づく4ドアセダンの魅力


前述の友人は早くも2台目の愛車(それまではモーターサイクルだったようです)にして、クラウンというクルマとしてはアガリに近いクルマに手を出してしまったようです。もっとも飽きがこない長く愛用できるというのは、売り上げがすべての自動車メーカーにとっては痛し痒しなところもあるのかもしれませんが…


▲気が付けば新車購入からもう20年以上、これに代わるクルマはありません

今なお、車種に関係なくクルマの運転席周りのスイッチやノブ、道路や駐車場の案内表示には3ボックスセダンのピクトグラムが使われる等、自動車のアイコン的な4ドアセダン。実用性でも趣味性でもベストバランスな車両形態だと思うのですが、もっとセダンの良さが見直されて欲しいと思いつつも、もはや「失ってはじめて良さに気がつくもの」になってしまうのは止められないようです。

[ライター・写真/鈴木 修一郎]

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