アイキャッチ画像
コラム

更新2020.08.22

292台限定のタイムマシーン、ポルシェ959

ライター画像

松村 透

当時、筆者が強烈に記憶しているのは「最新の自動車技術の粋を集めた1台。それがポルシェ959というクルマだ」というフレーズでした。とにかく何だか分からないけれど、当時の技術水準を遙かに超えた、ものすごいクルマが完成したんだ。子供ながらにそう感じたことを思い出します。ポルシェ959とはどのようなクルマだったのでしょうか。

ポルシェ959が生まれるまで




ときは1981年のフランクフルトモーターショー。パールホワイトに塗られたポルシェ911ターボ(930)カブリオレに4WD機構を組み合わせたモデルが出品されました。このクルマの下回りには鏡が置かれ、その見た目だけでなく、メカニズムもハイライトのひとつであることがアピールされました。

その後、1983年のフランクフルトモーターショーで「Gruppe(グルッペ)B」が出品され、同時に200台限定の予約が開始されます。

しかし、このクルマにはエンジンは搭載されていなかったのです。さらに2年後、1985年に開催されたフランクフルトモーターショーにも、より生産型の959に近いフォルムを持つ「グルッペB」が再び出品されました。最終的な仕様は、450馬力、革新的な4WDシステム、200台の限定生産、そして42万ドイツマルクという価格。そして、この959はすでに完売していることがアナウンスされました。

その後、1984年には911ベースの、1985年〜86年には959プロトタイプがのパリ・ダカールラリーに参戦。1986年には優勝を果たします。さらに、959のコンペティションモデルとして、86年のルマン24時間レースに参戦した「961」も、総合7位で完走しています。

1986年をもってグループBカテゴリーは消滅してしまいますが、まさに「走る実験室」として、実戦で鍛え上げたノウハウを市販車(959)に反映していったことが見て取れます。
外車王バナー外車王バナー旧車王バナー旧車王バナー

ポルシェ959。それはまさに、未来からやってきたタイムマシーン


こうして、発表から4年。ようやく959のデリバリーがはじまります。

450馬力をたたき出す、2.8Lオールアルミ&マグネシウム合金製、4バルブ水冷式水平対向ツインターボエンジン(2ステージツインターボ)、6速トランスミッション、外装にスチールを使っていないボディパネル、1輪あたり2本のダンパーを備えた、3段階に調整できる電子制御車高調整システム、アクティブ・トルクスプリット式4WD、ABS、中空のマグネシウムホイール、ポルシェ959専用に開発されたタイヤ…。この専用タイヤにブリヂストンのRE71が採用されたことは、あまりにも有名です。また、日本のクルマにも959のノウハウが…というエピソードも耳にした方も多いのではないでしょうか。

You Can’t Do it Alone | Porsche 959 | eGarage

仮想敵は、やはりフェラーリF40?


まったく異なるキャラクターを与えられながらも、実質的なライバルとされたのはフェラーリF40とみて間違いはないでしょう。ほぼ同時期に発売され、排気量やパワー、ボディの素材、それぞれのメーカーの威信をかけた限定生産車であること‥等々。自動車史上、この2台が比べられることは、必然的なできごとだったのかもしれません。

事実、世界のあらゆる自動車メディアがこの2台の比較記事を世に送り出しています。最近では、イギリスBBCの”Top Gear”でも、ポルシェ959 vs フェラーリF40の加速対決の模様がオンエアされました。もちろん、日本のメディアでも取り上げられました。

1980s Supercar Powertest - Top Gear - BBC

外車王バナー外車王バナー旧車王バナー旧車王バナー

ポルシェ959の真骨頂は、2基目のターボが効いた瞬間から


残念ながら、筆者も959を見る機会に恵まれても、乗ること(乗せてもらうこと)は未だ叶っていません。実際に959を運転したことのある方、そして助手席で体験した方にお話しを伺ったところ、いずれも「ポルシェ959の真骨頂は、2基目のターボが効いた瞬間から」との回答でした。

1980年代後半に0-100km/h 3.9秒、最高速315km/hをたたき出す性能を有していたことからも、959が、現代はもちろん、当時の基準であれば、なおさら異次元の加速を誇っていたことは間違いなさそうです。

Porsche 959: Posterchild of the Supercar Renaissance - XCAR

日本には7台のポルシェ959がミツワ自動車より輸入され、そのなかにはスポーツ仕様も


日本には、7台の959(6台のコンフォート仕様と、1台のスポーツ仕様)が、当時の正規輸入代理店だったミツワ自動車より輸入・販売されました。しかし「D車」の959のリアガラスにも、”MIZWA”のステッカーはありません。実際、筆者も複数の959(D車)を見る機会がありましたが、いずれも”MIZWA”のステッカーは貼られていませんでした。

この1台のスポーツ仕様は、限りなく黒に近い濃いグレーメタリックに塗られ、292台限定のなかでもわずか29台(諸説あり)という、極めてレアなモデルとなります。70年代のレーシングカーに装着されていた通称、”Lollipop(ロリポップ)型”とも呼ばれる革張りのレカロ製フルバケットシートが2脚、装着されていました。コンフォート仕様に装着されている車高調整機能やパワーウィンドウなどが簡略化され、コンフォートモデルよりも100kgの軽量化を実現したとされています。いわゆる「ライトウェイトモデル」に近い仕様なのかもしれません。
外車王バナー外車王バナー旧車王バナー旧車王バナー

その当時の技術の粋ともいえる、ポルシェ959ゆえの苦悩とは?


冒頭にも記したように、当時の自動車技術の集大成ともいえるポルシェ959。このことが、コンディションを維持するうえで大きな足かせとなっているようです。

一例として、メーカーが指定するポルシェ959のタイヤ交換サイクルは6,000km。エンジンオイルではありません。タイヤの交換サイクルなのです。もっとも、959を所有するようなオーナーであれば、複数台(それもかなりの台数)を保有するケースが大半であると思われます。6,000kmを走るにもそれなりの年月が掛かるでしょう。ちなみに、ポルシェ959専用のタイヤサイズは、フロント235/45VR17、リアは255/40VR17(スポーツ仕様は270/40VR17)でした。ナンセンスを承知で、庶民感覚の発想でいうなら、タイヤローテーションすらできないのです。

また、電子制御の部品構成が多いゆえに、故障したときの部品代や工賃、日本における車検など。ポルシェ959本来の性能を維持・発揮するためには、莫大な費用がオーナーの負担としてのし掛かってきます。正確な数字は失念しましたが、例えばABSユニットの部品ひとつでも、目玉の飛び出るような金額だったことを聞かされました。ある自動車メーカーにも、壊れて動かなくなったポルシェ959が放置されているとかいないとか…。

高額な維持費もひとつの理由なのでしょうか。ポルシェのレストア部門に、続々とポルシェ959が里帰りしているという話しも聞きます。生産されてから30年近く経つわけですし、五月雨式に故障して嫌気が指すならば、いっそ一念発起してフルレストアしてしまおう…。そんなオーナー氏の気持ちも痛いほど分かるような気がします。

そして、ポルシェ959は伝説の1台へ


莫大な資産を持つオーナーにとって、ポルシェ959のレストアはそれほど大きな出費ではないのかもしれません。すでにコレクターズアイテムとしての価値を確立した感のある959は、海外のオークションにも出品されつつあります。

Porsche 959 vs 911 Turbo (930, 993, 991) | TopGear Polska | Test Drive | ENG Subs


後の限定モデルであるポルシェ911GT1やカレラGT、ポルシェ918スパイダーとは異なり、ポルシェ911に近いフォルムを纏っている959は、292台のなかで多くの個体が末永く後世に受け継がれていくのではないでしょうか。

あとは、日本に何台の959を留めておくことができるか?これも実に悩ましい問題といえそうです。

[ライター/江上透 画像出典]

外車王SOKENは輸入車買取20年以上の外車王が運営しています

外車王SOKENは輸入車買取20年以上の外車王が運営しています
輸入車に特化して20年以上のノウハウがあり、輸入車の年間査定申込数20,000件以上と実績も豊富で、多くの輸入車オーナーに選ばれています!最短当日、無料で専門スタッフが出張査定にお伺いします。ご契約後の買取額の減額や不当なキャンセル料を請求する二重査定は一切ありません。