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コラム

更新2019.01.30

クラシックカーでの事故は保険金が支払われてからが始まり?保険金が支払われてからの部品探しと修復までの経緯とは

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鈴木 修一郎

前々回、前回と保険について書きましたが、最後に修理用の部品についても書いておこうと思います。もちろん保険金が満額支払われたからと言って、これで万事解決といかないのがクラシックカー等の希少車の事故です。

修理費用にキリがない鈑金修理


愛車を壁にちょっと擦って出来た、拳ほどの大きさのキズや凹みの修理に何万円もかかると聞いて驚くという話を経験された読者の方も多いと思います。実はクルマの修理の中で破損に対して一番修理費用がかさむ作業が鈑金修理ではないでしょうか。

整備業界では「時間対工賃」と言って、整備費用の基準の一つに作業にかかった時間というのがあります。1個数百円のゴムパッキン一つでも外すのに1時間かかれば「整備士の時間給+工場の稼働費用+油脂類の交換費用+廃棄物の処分費用」で何千円になるわけです。鈑金修理となれば何日も預かるためその分の整備士の日当と工場の稼働費用更に工場を占有する土地代も発生するため何万円、時に何十万円もの金額になるわけです。

自分が預けた整備工場の社長の技量であれば直そうと思えばハンマーでひしゃげたフェンダーやバンパーも直せないことは無いのですが、フロントエプロン、ボンネット、右フロントフェンダー、リアクォーターパネル、前後バンパーその他ブラケット類を一つ一つの何日もかけて鈑金作業で直していたら工賃も工期もキリがなくなってしまいます。

しかし、一個一個部品を探しても全部そろえるのに気が遠くなりそうな話なので、前述の通り部品取り車を丸ごと一台「丸車(まるしゃ)」で探し、残った部品はスペアもしくは他の人に買い取って修理費用の一部に充てるということにしました。

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どうにか部品取り車を見つけたものの…


ネットオークションやフリマサイトなどを虱潰しにあたり、どうにか北関東で排気量違いの自分と同じ昭和48年式のセリカLB1600GTの書類無し部品取り車とボンネットを見つけました。出品者は違う物のどちらも北関東からの出品ということで、2tロングの車両積載車を3日ほどチャーターし2日目の午前中にセリカの部品取り車を引き取り、正午前にボンネットを引き取るというスケジュールを立て、友人に無理を言って付き合ってもらい北関東某所まで引取りに行きました。

事故後から2カ月ほど経っていましたが、部品取り車を取りに行く道中、自分が事故を起こした現場を通りかかるとまだスリップ痕と側壁の擦過痕が残っていたのを今でも覚えています。


▲部品取り車下で毛布にくるまれているのがボンネットです

思った以上に錆が目立っていているものの、これでなんとかなるかと思ったのですが…整備工場の社長が一目見るなり、「鈴木君が部品取り買ってきたって聞いたけど、これはちょっとなぁ」確かに凹みや歪みこそない物の錆穴が多すぎて使い物にはならないとのことでした。



とはいってもブラケット類やテールランプ等、そこそこ使える部品が無いわけでもなく、2T-G型エンジンとT50型トランスミッションと6.7インチデフ(筆者のLB2000GTとは互換性なし)は整備工場の社長が部品のストックに欲しいとのこと。

必用のない部品のいくつかはオークションに出した所、多少の修理費用の足しにはなりました。


▲素人考でこのくらいのフェンダーなら直せるかと思ったら予想以上の歪みと腐食があり修復は断念せざるを得ませんでした

部品の枯渇問題とリプロ部品の可能性


結局リアパネル周りは鈑金修理、幸いリアバンパーは筆者が予備を持っていたので予備を使い、フェンダーとバンパーと右ドア(見た目にはわかりませんが全体的に歪みが発生していました)は社長の知り合いの専門店から譲ってもらうことに。

以前はこのくらいの部品はネットオークションを見ていればすぐに出品があったのですが、この種のクラシックカーの外装部品はこの数年急に市場に出てこなくなりました。昨今のクラシックカーブームで純正部品の流通在庫はもちろん、すでに持っている人や専門店が手放さなくなったことで解体車もいよいよ底を尽いてきたようで、物によってはオークションに出るやすぐに入札が入ってあっという間に高騰してしまう物もあります。

とくにフロントバンパーは一番破損しやすい部品と見えて、過去の落札価格を見ても状態の悪い物でも2~3万円、目だった錆が無い程度で7~8万円。状態のいい物や未使用品にいたっては15万円前後になっているものもありました。

しかし、一方で悪い話ばかりでもありません。今回の修理では必要は無かったのですが、どういうわけかインパネ周りの状態が異様なくらいに状態がよく、メーターの文字盤の日焼けが少なく、ダッシュボードのクラッシュパッドにはひび割れがないどころかまだ残っているくらいです。



ドアの内張の状態は中の下ですが、前後シートは長年の汚れはあるものの破れは少なく、しかも生産期間は8カ月しかない初期型内装です。





実は座面に赤ステッチが入っていて、シートバックにセリカのエンブレムのエンボス加工のあるセリカLBは非常に希少です。



外してみて驚いたのですが、シガーライターが塩害で錆びている以外、樹脂部品は驚くほどきれいな状態で残っています。



中でも驚いたのがこのクラッシュパッド。取り外すのに支障にならない程度に弾力性が残っていて艶の退けやひび割れは一切なし。新品同様と言ってもいいかもしれません。いっそ売ってしまえば最低でも15万円くらいにはなるでしょう。しかし、ここまで状態の良いクラッシュパッドはそうそう手に入る物ではありません。かといって表皮をつぎはぎして直したクラッシュパッドと交換して使うにしてもまた、いずれ劣化してバリバリに割れてしまうのは目に見えています。

そのとき、ふと最近THサービス(https://www.gaisha-oh.com/soken/revive-parts-old-car/)が、セリカLB用の内装部品のリプロを始めたのを思い出しました。比較的台数の多い後期型用の内装をリリースしたので、試しに代表の平野さんに「初期型内装とクラッシュパッドがあるのでこれをサンプルにリプロ品を作れないか」と聞いたところ、ドアの内張はもちろん、初代セリカオーナー共通の悩みであるダッシュボードのクラッシュパッドのリプロも手掛けたいとのこと。

譲渡が決まり商品化できたときに「現在の材質でできたひび割れない新品のリプロ品」が謝礼でもらえればいいやと思っていたら、こちらの希望額で買取ってもらえることに(!)まさしく渡りに船です。また、今後はその他内外装の樹脂パーツのリプロを手掛けたいそうで、世の中捨てた物ではありません。

さらに、無理を承知で前述のレストアパーツ.com(https://www.gaisha-oh.com/soken/body-exterior-parts/)の井上社長にも相談した所、現在扱っている国産車の部品は510型ブルーバード、ハコスカ、ケンメリ、S30ZとAE86なのですが、将来的には他の車種にも展開したいとのこと。中でも初代セリカは問い合わせが多いようで「次に商品化するとしたらセリカの外装部品を商品化したい」と、今回の修理には間に合いませんが将来的には希望の持てる返答が…

雨降って地固まる。今回の事故は正直つらいものでしたが、一方で直すために部品探しでなりふり構わず奮闘しているうちに、保険会社だけでなくリプロ部品メーカーまで動かしてしまったという思わぬ収穫もありました。もし、リプロ部品の供給が根付いてクラシックカーの部品にも決まった値段ができて概算が出せるようになれば、今後保険会社の対応も変わってくるのかもしれません。

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リア回りは鈑金




できれば、リアクォーターパネルとバックパネルも交換したかったのですが、部品取り車の状態が悪すぎたため紆余曲折を経て結局鈑金修理で直すことにしました。





くしゃくしゃになったクォーターパネルの角はボンデ鋼鈑かり切り出して作り直します。筆者がお願いしている整備工場のポリシーで、鈑金修理はすべて鋼板の手叩き、パテやFRPは使いません。しいて言えば塗装下地を作るためのキズ消しに薄付け専用の仕上げパテを使うだけ。もちろん、修理した箇所にはしっかりと磁石がくっつきます。

日本の中古車市場では事故車、修復車の評価は低くなりがちですが、きちんとフレームを修正して然るべき作業で修理してあれば、事故車や修復車でも問題はないのですが…


▲FRPや鈑金パテは一切使わず(キズ消しの仕上げパテのみ使用)手叩きだけで仕上げてあります

バンパーはメッキ塗装




前述の通り今回一際苦労したのがフロントバンパーです。一番破損しやすい部品なだけに、状態のよい物が見つからず、再メッキを諦めて塗装仕上げにしました。



最近は便利なものがあり、ホームセンターで売っているメッキ調塗料ではなく「ハイパークローム」(http://www.showup.jp/Ag.html)という、塗装でクロームメッキの鏡面を塗装で(!)再現できる塗料があります。今回はバンパーに使いましたが、レストアで苦労するエンブレムやグリル等の樹脂メッキの再生にも有効なマテリアルだと思います。



サイドストライプのデカールは自分で貼りました。このデカールはTHサービス(http://thservice.net/)を通じて入手可能ですので、同型車オーナーの方はぜひ参考までに。

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誰も得をしないクラシックカーの事故


よく、保険の修理をしている工場は食いっぱぐれがないなんて言い方をされることもありますが、これが昔のクルマだとそうもいきません。この通り保険金が支払われたところで、現行車のように決まった値段でいつでも部品が手に入るわけでもなく、手間と時間ばかりかかってまったく儲けが出ないのです。

日本では海外のクラシックカーを安く買ってレストアして高く売るTV番組のようにはいかないのが実情です。今回の修理は内製で済ませたのでどうにか保険金の金額に合わせることができたのですが、鈑金をすべて外注に出していたら間違いなく予算オーバーだったことでしょう。普通の整備工場では昔のクルマの修理をなかなか受け付けてもらえないのは、ノウハウや部品のほかにとにかく時間と手間がかかりすぎて儲けにならないというのもあります。とはいえ、手間と時間の問題の大半は部品さえ出れば解決できるのですが…。その点で、今回いくつかのリプロ業者からセリカの部品を商品化したいという話が出たのは思わぬ収穫でした。

しかし、やっぱり事故は起こさないに越したことは無いというのは肝に銘じたいと思います。

[ライター/鈴木 修一郎 写真/鈴木 修一郎・東海自動車]

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