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コラム

更新2018.02.20

メルセデス・ベンツ1号機のレプリカを完全ハンドメイドで制作!?兵庫県の産業技術短期大学へ行ってきた

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小嶋あきら

ガソリンエンジンで動く自動車のルーツは、メルセデス・ベンツのパテント・モートルヴァーゲンであるとされています。1885年に試運転に成功したこの自動車は、950ccの水冷式単気筒エンジンを搭載していて、時速10キロほどで走ったと言われています。

そんな歴史的な自動車のレプリカを、車輪のリムからエンジンに至るまで完全にハンドメイドで造ってしまった学校がありました。兵庫県尼崎市の産業技術短期大学です。

ある晴れた2月の昼下がり、自動車の元祖に会うべく訪ねてみました。

メルセデス・ベンツ1号機プロジェクトを発案!




メルセデス・ベンツ1号機プロジェクトを発案し、中心になって推進したのは同短期大学ものづくり工作センターの久保田憲司講師です。トヨタ博物館に展示されていたレプリカの採寸から始まって、約一年で完成させました。


▲スライド式吸気バルブ

「外から見える部分しかわかりませんから、中身は試行錯誤です。残された文献を頼りに。たとえば吸気バルブなんですけど、これがスライド式なんです。エンジンを掛けてみると、ここから盛大に圧縮が漏れて煙が出ました。それでバルブの当たる面に、ロータリーのアペックスのようなシールを入れてみました。バネでテンションが掛かるやつです。これでほぼ解決しました。」

「排気バルブは現代のエンジンと同じ仕組みです。ただしここは外から見えませんので、完全に推測で製作しました。後日、あるベンツのディーラーから、展示していたレプリカ1号機の調子が悪いから直してくれ、という依頼があって、その修理の時に排気バルブを見てみたら、うちで作ったのとほぼ同じでした。正解やったんや、と嬉しくなりました」

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エンジンの始動を行うと…




エンジンは車体後部に積まれていて、回転軸はなんと垂直です。クランクに直結した赤い大きなフライホイールが、コマのように水平に回転します。「設計の段階で、フライホイールを縦にするとジャイロ効果で曲がりにくくなるかもしれない、ということで水平にしたらしいです。実際にはこの程度の回転でそんな心配は無いんですけどね」と久保田講師。エンジンの始動は、この大きなフライホイールを手で回して行います。

予想に反して、エンジンはあっさりと始動しました。「ぱん、ぱん、ぱん」という歯切れのいい排気音です。しかしその回転数はものすごく遅く、エンジンの音というよりは、輪転機が回っているような感じです。普段耳に慣れたものに例えると、NikonD600の連写Hよりもやや遅い感じです。って、見事に共感できない例えで申し訳ないのですが、だいたい秒間4コマというところでしょうか。4サイクルなので回転数は爆発間隔の二倍ですから、500rpm弱、といったところかと思います。



運転席に座って最初の印象は、車高が高いな、ということです。そして、自分の前には何もありません。フロントガラスも、ダッシュボードも、スピードメーターも。ヘッドライトすら無いのです。矢印にレバーが付いたような心許ないハンドルと、まるで自転車のようなリジッドフォーク、そして細い前輪。視界に入るのはこれだけです。

この自動車には、スロットルがありません。エンジンはひたすら一定の回転数で回り続けるだけです。運転席左側の長いレバーを前に倒すと、エンジンの回転に直結しているベルトがスライドして、フリーのドラムから車軸に繋がっているドラムにじわじわっと移動することで、徐々に駆動をはじめる仕組みです。





おそるおそるレバーを前方に倒していくと、意外なほど静かに前進をはじめます。いや、エンジンはそれなりにやかましいのですが、とにかく穏やかな発進です。歩くスピードから、小走りくらいの速さに加速します。ぱん、ぱん、ぱん、という爆発の一つひとつが聞き取れるくらいの回転ですので、エンジンの鼓動が駆動力として伝わってきます。ただし、大きなフライホイールと結構滑るベルト駆動のおかげで鼓動はかなりマイルドになっていて、ちょうど観光で乗せてもらった馬のような感じです。自動車が「馬無し馬車」と呼ばれた時代の乗り物ですから、期せずしてそういう乗り味になっているのかも知れません。

また、圧倒的に小さなハンドルは操作が重いだろうと覚悟していましたが、細くソリッドなタイヤと軽量な車重のおかげで拍子抜けするほど軽く、その際、学校内を百メートルほど乗らせていただいたのですが、ものすごく気持ちのよい操作性でした。そして、130年前にこれを作った人についてあれこれ思いを巡らせる、そんなひとときを味わいました。

学生さんが製作中のV型8気筒スターリングエンジン




この自動車は、2015年の大阪モーターショーに展示されました。製作スケジュールはかなり押していて、実際にエンジンが掛かったのはぎりぎりのタイミングだったそうです。産業技術短期大学では、これ以外にも過去にロータス・ヨーロッパのEVや、なんと垂直離着陸機VTOLなどにもチャレンジされていました。現在はスターリングエンジンの開発に取り組まれていて、学生さんが製作しているV型8気筒スターリングエンジンなども実に精巧で、完成が楽しみです。

「いま造ってみたいのは星形七気筒エンジン」とおっしゃる久保田講師。ものづくりの楽しさと、はまったら抜けられない沼の深さを垣間見せていただいた気がします。

[ライター・画像/小嶋 あきら]

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