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コラム

更新2018.03.30

エンスージアストではない私が「ランチア」にハマった理由

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林こうじ

ひとつのブランドに強い思い入れをもつ人はエンスージアスト(信仰からきた言葉で、熱狂的に崇拝する人という意味)と呼ばれる。現在ブランドがほぼ活動休止状態となっているランチアの場合、フィアット・クライスラーに変わってブランドを支えるかのごとく、とりわけ濃いエンスージアストの方々が多い。

ランチア、アルファロメオといった特定のブランドにのめり込まなくても、イタリア車のエンスージアスト、スポーツカーのエンスージアストといった具合に、多くの自動車趣味愛好家の場合どこかスイートスポットがあるものだ。

ランチアに興味を持った父の影響



▲エンスージアストイメージ

恥ずかしながら、私はとりたて熱心なエンスージアストではない。ローバーミニが自動車趣味の原点で、MGカークラブにも入っていたこともあり、アストンマーティンに憧れるが、英国車党ではない。縦目のメルセデスも好きで、ドイツも大好きで住んでいるが、ドイツ車党でもない。輸入車が好きなタイプかと聞かれても、いすゞやダイハツの国産旧車も大好きだし、マツダのロードスターや、レクサスのFシリーズも気に入っている。正直いうと20代前半は4x4やトラックは苦手だったが、結局ただの食わず嫌いで、ダイハツ・タフトを手に入れたことでオフロードドライビングの楽しさを知り、レンジローバーも大好きなブランドになった。

立派なエンスージアストの皆さんには、気の多い不信心者だとお叱りを受けてもおかしくない。しかし、本人は自動車趣味の右翼でも左翼でもなく、全体を見渡せるコックピットか垂直尾翼のポジションだと思っている。

そんな私がランチアに比較的思い入れを持っているのは、父の影響が大きい。クルマ好きの父が最初にランチアに興味を持ったのは、免許を持ってない頃に読んだ「毎日グラフ」のランチア・フラヴィア・スポルト・ザガート(以下、フラヴィアスポルト)の記事がきっかけだそうだ。その後、「カーグラフィック」の小林彰太郎さんの記事を読むようになり、メルセデスに対抗できるクオリティをもつランチアが好きになっていったらしい。

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父とランチアの出会い


そんなある日、たまたま通りすがったアメ車専門店の片隅で、バンパーが無くなり、うずくまる様にして放置されていたフラヴィアスポルトを見つけ、どうしても助け出さないといけないと思ったようだ。幸い、当時のランチアの知名度はさらに低く、日本では知る人ぞ知るクルマだったので、なんとか手に入れることが出来た。辞書を引きながら書いたイタリア語で、最近日本でフラヴィアスポルトを購入したこと、オーナーズマニュアルがなく、部品の入手に困っているということを、トリノのランチア本社に送ったところ、新品のオーナーズマニュアルとともに丁寧な返事がきたそうだ。


▲父のフラヴィアザガート

その後、フラヴィアスポルトは手放すことになり、アルファロメオ・ジュリアやアルファロメオ・スッド・スプリントを経て、クラシックカーからはしばらく遠ざかっていた父だったが、ランチアへの思いは強いようで、フラヴィアスポルトの複雑なボディラインが常に新鮮で飽きが来ないこと、フラヴィアの水平対抗4気等エンジンを開発したアントニオ・フェッシア博士の話や、電動で持ち上がる湾曲したリアウィンドウの話を、常日頃から聞かされていた。

手放したフラヴィアスポルトを再度手に入れたくても、生産台数たった629台の希少車。残念ながら国内で売り物が出ることは無く、当時譲った相手とは連絡がつかない。時が経ち、ある日イギリスでフラヴィアスポルトの売り物が出ているのを発見した。当時は、今よりも遥かにポンドが高かったが、清水の舞台から飛び降りる気持ちで購入した。

このクルマを父と二人三脚でレストアする話は、また機会があれば書かせて頂こうと思う。

イギリスから輸入したフラヴィアスポルト




フィアットに買収される前の黄金期の三姉妹、フルビア・フラヴィア・フラミニアに触れてみると、当時のランチアの技術先進性と妥協の無き設計がよくわかる。悪くいえばコスト意識が欠落しているかのごとく、良く言えば利益を出すのが目的ではなく設計上よい車を作るために妥協しなかったといえるだろう。

まずはディスクブレーキ。1953年にルマンで優勝したジャガーCタイプが装着していたことで有名なダンロップ製ブレーキキャリパーを、スポーツモデルに限らずベルリーナに至るまで全車種4輪に装着していた。よく比較されるアルファロメオが4輪ディスクブレーキを採用するのは、ランチアよりかなり後になる。次にショックアブソーバー。当時では珍しかった低圧ガス封入式のド・カルボン製を採用。これによって、ショックアブソーバー内のキャビテーションの発生を抑え、油温が上がっても安定した減衰力を発生させられるようになった。

ドアキャッチも、「最善か無か」の時代のメルセデスと同じピンストライカータイプを使用しており、金庫のようと称される独特のドアの開閉音を聞くことが出来る。

上記の特徴は、残念ながら普段ほとんど目に触れない部分だが、操縦安定性などクルマの基本性能にとって大事な部分だ。ランチア・フルビア・クーペなど、たった1300ccのコンパクトカーにも関わらず、新車当時ジャガーEタイプより高額だったというのも納得のエピソードである。


▲2014年に生産終了を迎えたランチア・デルタ

フィアット・クライスラーグループのブランドのひとつとなってから、上記のような技術的な先進性は影を潜めたが、代わりにアルカンターラや本革内装にこだわった「小さな高級車」というニッチなポジションを近年確立した。残念ながら、現在はイタリア市場でイプシロンのみに限定と、先が見えないランチアブランドだが、かろうじて売却されずにいる。

ジュリアで本格的にテコ入れされることになったアルファロメオのように、いつしか本来の高性能・高品質なクルマに、近年の上品な内装を加えた新しいランチアが生まれる機会を願ってやまないのである。

[ライター・画像/林こうじ]

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