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コラム

更新2018.08.30

自動車の母!岐阜かかみがはら航空宇宙博物館で探る「飛行機と自動車の縁」

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鈴木 修一郎

筆者の住む愛知県周辺は自動車産業の街であることは周知の事実かとは思いますが、実は自動車だけでなく航空機や鉄道、造船と輸送機器産業の街でもあります。よく名古屋には観光産業がないとはいいますが、こう見えて乗り物に関する見学施設はとても充実しているのです。

自動車ではトヨタ関連博物館で、岡崎にある三菱オートギャラリー(要予約)、鉄道ではリニア鉄道館、レトロでんしゃ館、船舶では名古屋海洋博物館と南極観測船ふじ、航空機では岐阜かかみがはら航空宇宙博物館とあいち航空ミュージアムが挙げられます。とくに飛行機にいたっては古くは三菱の零戦、戦後は国産初の旅客機YS-11。最近ではMRJ、米国法人の開発ではありますが、ホンダジェットもある意味では元浜松発祥の企業の航空機、というということになるかもしれません。

乗り物が好きな人には見どころがたくさんあるのではないでしょうか?クルマ好きであるCLカーズ読者の皆様の中には、実はクルマ以外にも飛行機や船舶が好きな方というのもおられるのではないでしょうか?ちなみに筆者の友人には昔から鉄道マニアが多かったりします。今回は、自動車から志向を変えてこの春、リニューアルしたばかりの岐阜かかみがはら航空宇宙博物館に行ってきました。

自動車と飛行機の歴史の「縁」


自動車の歴史にも造詣の深いCLカーズ読者の皆様であれば、自動車と航空機の開発史には密接な関係がある事は周知の事実でしょう。空力、モノコック、軽量化、過給機、最近ではバイワイヤ技術などは航空機技術から転用された物が多く、自動車メーカーにもスバルやBMW、サーブなど航空機関連メーカーから自動車メーカーに転業もしくは事業展開した企業も存在するのです。

とくにロールスロイスにいたっては現在、自動車部門はBMW資本になってしまいましたが、航空機エンジンメーカーとしてのロールスロイスホールディングスは世界2位を誇ります。現在もイギリス資本の企業として健在で、航空機では逆にBMWをロールスロイス社が買収し、「ロールスロイスドイツ」として、BMWをロールスロイスホールディングスのドイツ法人にしてしまう、という非常に複雑な資本関係になっているのです。

日本でも戦後に航空機の製造が禁止された一方で、その高い技術力から自動車関連企業に転業、もしくは自動車関連企業に移籍したエンジニアが多いです。前述のスバルは有名ですが、トヨタ自動車の創始者豊田喜一郎は終戦直後から自動車製造の再開を見越して「今のうちに優秀な航空機技術者を確保するように」と指示しています。そうして抜擢された1人がトヨタスポーツ800、カローラ、セリカ、ソアラを開発した立川飛行機出身の長谷川龍雄です。

そうした例は他にもあります。楽器メーカーのヤマハが発動機製造とモーターサイクルに進出したのも、木工技術を見込まれてプロペラ製造を委託され、貸し出されたテスト用エンジンを整備しているうちに自前でエンジン製造を手掛けるたのがきっかけです。また、トラックの架装やリフト式立体駐車場を手掛けている新明和工業の前身は二式飛行艇や紫電で有名な川西航空機で、その後YS-11の開発を経て現在も飛行艇US-2を製造しています。

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岐阜かかみがはら航空宇宙博物館




実は筆者はクルマ以外の乗り物はマニアというほどの興味はないのですが、多かれ少なかれ自動車とは技術的にも歴史的にも縁のある飛行機は一応おさえておこうと、岐阜かかみがはら航空宇宙博物館に行ってきました。



ご存知の方も多いとは思いますが、飛行機というのは思った以上に図体の大きい物です。さすがに自動車と違い屋内に何十機、何百機と収蔵するのは難しいのか、一部の大型機は屋外展示になっています。こちらは川崎V-107Aヘリコプター、ボーイング・バートル社のバートル107のライセンス生産機だそうです。



こちらは日本人には忘れえぬ機体であろう、日本航空機製造YS-11。戦後日本初の民間用旅客機で、製造には6社の航空機メーカーが参加しています。その中にはCLカーズ読者お馴染みの富士重工業(現スバル)の名前もあるのです。初飛行は現在の県営名古屋空港で愛知県にも縁の深い飛行機といえるでしょう。1973年までに182機が製造され、30年以上にわたって現役で使用されました。現在では大半の機体が退役したものの、ごく少数飛行可能な状態で保存されている機体も存在するという堅牢さはさすが日本製といったところでしょうか。



館内に入るといかにもな複葉機が出迎えます。飛行機には疎い筆者ですが、実は複葉機のノスタルジーでどこかメルヘンな姿は昔から好きだったりします。この飛行機は川崎造船がフランスのサルムソン社のライセンスを得て、各務原ではじめて作られた飛行機「陸軍乙式一型偵察機(サルムソン2A2)」の実寸大模型だそうです。



これはご存知の方も多い事でしょう、乙式一型の上にはなんとライトフライヤー号の実寸大模型がぶら下がっていました。(この飛行機が世界初の飛行機というのは諸説あるようですが)まさしく、すべての歴史はここから始まる事を意味しているのでしょう。


▲陸軍三式戦闘機「飛燕」

これは現存する、唯一のオリジナル「飛燕」の機体とのこと。敗戦後、旧日本軍の飛行機は米軍に接収され、ほとんどが解体処分されたのですが、この機体だけ横田基地に展示された後、1953年に日本に返還され、展示場所を転々とし知覧特攻平和館に貸与され、2015年に各務原に里帰りし、川崎重工岐阜工場にてレストアされたものです。

何をもって「レストア」とするか




ところで、何故レストア済なのに塗装されてないのか、疑問に思う方も多い事でしょう。ある航空機史の研究家による話では、飛行機と自動車ではレストアや保存の考え方が違うからだといいます。自動車の場合は公道走行を視野に入れた動態保存を重視しており、場合によっては現代の交通事情に合わせて補器類や点火装置を現代の部品に置きかえる事も厭わないのですが、航空機の場合は「形態保存」が重視され、退役機を保存する場合は退役した時点の状態を維持する事に専念するのだそうです。そのため、戦後になって追加された部品や塗装は取り除かれ、極力退役した時点のに残っていた部品だけで構成して保存しているといいます。

むしろ、塗装や部品の追加はオリジナルの機体に負荷をかける恐れがあるそうで、(おそらく、自動車と違い飛行機はギリギリの限界設計をしていることによるものと思われます)自動車の場合のように錆びないよう塗装や錆止め処理で保護するのではなく、むしろ錆びないような環境を作って保存するという方法を取るのだそうです。



基本的に工場を出てから大きな仕様変更もなく車検やマイレージごとの消耗品交換だけで使われ続ける自動車と違い、航空機の場合は工場を出て現場に投入された後、目まぐるしく変わる航空法に合わせて改変されることが多いです。現役中にモノコック以外は全部作り替えられてしまう事も少なくありません。

工場出荷時に近い状態を保っている事が「オリジナル」とされる自動車と違って航空機は「現役当時の最後の姿」が「オリジナル」とされるため、実際に飛べるかどうかよりも、退役時についていた部品が当時の状態のままどれだけ残っているかが重要なのだそうです。その点においては自動車でもトヨタ博物館の布垣館長の言っていた「クラシックカーのレストアでも大統領専用車の場合、実際に大統領が座っていた椅子を張り替えてしまっては意味がなくなってしまう」という話に通じるものがあるかもしれません。

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技術にも垣間見える自動車との「縁」



▲三菱T-2練習機

航空自衛隊パイロット育成のために、日本で独自開発された超音速ジェット機で、メーカーこそ三菱となってはいますが、開発には日本飛行機のほか富士重工業(スバル)、川崎重工業、新明和工業と一部クルマ好きにもお馴染みの企業が協力しています。この機体は見た目の通り1995年まで曲芸飛行チームの「ブルーインパルス」で使用されていたものだそうです。


▲富士FA-200改STOL(エストール)実験機

航空宇宙研究所(現JAXA)がSTOL(短距離離着陸)の実験に使用した機体だそうで、ベースはスバル車好きならご存知の方も多いでしょう「エアロスバル」。キャビン部分が心なしかスバル360に似ているように思うのは筆者だけでしょうか。ちなみにこの実験機はエルロンやフラップに孔をあけ、空気を吸い込ませて揚力を高める実験をしたというのですが、その空気を吸い込むためのコンプレッサーを駆動していた機器はなんとスバル360のEK32型エンジンだそうです。


▲日大N-70シグナスモーターグライダー

1972年に日大の木村研究室で学生たちによって設計された動力式グライダーだそうで、動力用に使われているのなんとスバルの乗用車用エンジン(!)。おそらくスバル1000かff-1のボクサーエンジンと思われます。スバル360で地上に舞い降りた隼は、実はN-70型動力式グライダーとなって再び空に舞い上がっていたというのも夢のある話ですね。


▲三菱T2CCV研究機

コンピュータによる姿勢制御とバイワイヤ方式の実験機です。それまで直接パイロットが操縦桿やペダルを操作し、油圧やワイヤーによってフラップを動かしていたのを、電気信号に置き換えアクチュエーターで操作することで操縦時のパイロットの負担軽減を狙ったものです。もちろん電気信号によるリモートコントロールになるので、コンピュータによる姿勢の補正も可能となります。

現在皆さんがお乗りのクルマの電子制御スロットルやブレーキバイワイヤ、スタビリティコントロール等はこの技術を自動車用に転用した物(もしくは同時期に開発がリンクしながら進んでいたかもしれません)ということになるでしょう。

ちょっと今回はクルマからそれた内容になりましたが、やはりエンジンが付いた乗り物というものは形態を問わず魅力的な物で、時には自動車の技術と密接な関係にあったりで新しい発見があったりするものですね。

岐阜かかみがはら航空宇宙博物館
住所:岐阜県各務原市下切町5丁目1番地
電話:058-386-8500
定休日:毎月第1火曜日
年末年始(12月28日~1月2日)
サイトURL:http://www.sorahaku.net/
[ライター・画像/鈴木 修一郎]

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