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コラム

更新2019.04.12

桜の散り際に訪れる別れ。20年以上ともに歩いた日産クルーを手放した理由は「製廃部品」にあった

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鈴木 修一郎

以前、23年間にわたって活躍してきた鈴木家の自家用車でもあり、筆者にとって亡父の遺品であった平成8年型日産クルーGXサルーンタイプGがABSアクチュエーターの経年劣化によるフルード漏れで継続車検が受けられない危機にあるということについて書きました。

そして先日、結局補修部が入手できず、買い替えという苦渋の決断に至りました。

八方手を尽くしたものの代替部品の入手は叶わず




まず、メーカーからの新品部品の供給が打ち切り、いわゆる製造廃止・製廃が発覚し部品の入手方法で思いついた方法が

・今付いているアクチュエーターを修理する
・入手可能な他車種の部品を流用
・解体業者、リサイクル部品業者から同型車の使用可能な中古部品を探す

まずアクチュエーターの修理ですが、ネットで「ABSアクチュエーター オーバーホール」検索するといくつか、ABSアクチュエーターの修理を請け負っている業者の情報がヒットしたのですが、修理可能なのはABSアクチュエーターの制御ユニット部分であり、フルード漏れといった機械本体の故障には対応できないとのこと。

基本的にアクチュエーター本体は1体物同然であり、中の部品は修理を想定して設計されていないとのこと。ごく稀にOリングのゴム部品が汎用品で同じサイズがあり交換して直したケースもあるようですが、部品の性質上安全性の面で好ましくないようです。

また入手可能な他車種の部品流用ですが、クルーを複数台「コレクション」している友人に聞いたところ、日産のFR車の既存コンポーネンツの流用で作ったクルマというイメージとは逆に、意外やクルーのABSユニットは専用設計でしかも初期型用と後期型用があり、同系統の日産車のABSとは互換性がないそう。とはいえ、ダメ元でR31ハウスのジャンクヤードにある膨大な80~90年代の日産のFR車のABSを見てまわってみました。しかしどれも形状が違い、一見互換性が高そうなY31セドリック・グロリアもまったく違うABSアクチュエーターがついていました。

こうなると、あとは中古部品を探すことになるのですが、唯一ある解体業者から出ていたHK30型(日産クルー)用ABSアクチュエーターは後期型用…。互換性もなければ部品番号が統合されたわけでもなく使用不可。R31ハウスの中古部品ルートはもちろん、筆者の知り合いのルートも使って部品の探索を試みたのですが、クルー自体は多くてもABS装着車はレアモデルというのが災いし中古部品市場にも皆無という結果でした。

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見つからない部品、迫る車検


待てど暮らせど部品の情報は出てきません。それでも車検切れは迫ってきます。もう部品は無いものと考え、最後の手段として提案されたのが「いっそABSユニットを撤去してしまう」という方法でした。

この「ABSユニットを撤去する」という方法、チューニングカーやモータースポーツ愛好者の中では結構メジャーですが、果たして法的にはどうなのか?という疑問をもたれる方も多いと思います。とくに2017年9月から車検の基準が厳しくなり、インパネの警告灯の動作も検査の対象となったので尚のことですが、結論から言うと「ブレーキ、警告灯が正常に作動していればABSの有無は検査の対象外」でありABS撤去自体は問題ないそうです。

日産クルーの型式認証で提出されているフロント・ディスクブレーキ、リア・ドラムブレーキのブレーキ形式を変更さえしていなければ、ABSユニットを撤去しても記載変更、構造変更を要する改造には当たらず、ABSの警告灯も撤去してしまえば問題ないだろう、という結論に至ったのですが…

問題はそれを請け負ってくれる業者無いという問題に直面しました。真っ先にR31ハウスが候補に挙がったものの、「スカイラインやシルビアではABSのストックもあればABSユニットの撤去の実績はあるものの、日産クルーのABS撤去は全く実績がないため、ABS撤去にあたってどんな部品が必要になるかも見当がつかず、実際に撤去できるか確証がない」との返答。そこで前述の日産クルーコレクターで自動車整備を生業にしている友人が「手持ちの部品一式で完全にABSレス仕様に作り替えることも可能だから持ってきて欲しい」と名乗り出てくれました。


▲このクルマと見る桜もこれが最後となりました

現オーナーの母を説得しきれず


むしろ、最大の障壁は部品よりも「自分がこのクルマのオーナーではなかった事」かもしれません。もちろん、自分がオーナーであれば有無をいわず、前述の友人に預けた事でしょう。しかし、名義上は筆者の母が所有者であり最終的な決定権は母にあります。ABS撤去でどうかという話が持ち上がった時点で、もう母は買い替えに傾いていたようで、結局4月13日の車検切れをもって処分ということになりました。

とくにクルマに思い入れのない人にしてみればワンオーナーの当時ナンバーで家族の遺品といってもこんなものなのでしょう。またABS撤去の工期がわからない、改造車となるため日産系ディーラーでの整備は受けられなくなるというのもネックとなりました。

いっそ筆者が引き取るという形にしようにも、既にセリカとスバル360の維持で手いっぱいで、その上クルーまで維持するというのは現実的ではありません。まだヴィンテージカーとまではいかないまでも、ヤングタイマー世代のワンオーナー車でこういった理由で人知れず潰されるクルマというのは相当数あるのだろうなとふと思ったりもします。

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希少車ゆえの難しさ


我が家の自家用車にクルーを選んだ理由は、亡父がこれでもうクルマを買うのは最後にするということにあたって、「堅牢かつ実用的で陳腐化しない5ナンバーセダン」という我が家の自家用車に求める要件と、「直列6気筒エンジンのFR車で、1960年代の4ドアセダンを思わせるようなプレスラインの時代錯誤的なまでの箱型デザイン」という筆者の嗜好を同時に満たすという、奇跡のような一致を見せたクルマでした。

しかし「普通に維持できて普通に乗れる実用車」という自家用車としての要件と「むしろ普通でないクルマが好き」という筆者の嗜好だけは一致することはありませんでした。スペック上は「最高の実用車」でも、皮肉にも実用車を極めてしまったがゆえに気が付けば「普通のクルマ」から外れ、いつしか希少車としての要素が強くなり、むしろ筆者はそれを喜んでいましたが、希少車になってしまうことでディーラーでも扱いに困るという実用車としては致命的な事態になってしまいました。

最近、1980~1990年代のクルマが好きな若い人の間で「エモい」(エモーショナルの略)という言葉を耳にします。オールドタイマーとも違う、時代が大きく変わった年代の感情を突き動かされるような…そんな斬新さを感じるちょっと昔のクルマに対して言うようです。しかし、彼らが「エモい」と持て囃しているクルマの中には、今後こうした理由で維持が不可能になるクルマが出てくるのではないかと思うと暗澹たる気分になります。

まさか、セリカLBやスバル360よりも先に、ある日突然、それもあっさり部品一個の問題で廃車という事態に追い込まれるとは思ってもみませんでした。

我が家のクルーの今後


実は前々から前述のクルーコレクターの友人に「もし、ウチのクルーを手放すことになったらお願いします。」と内々に話してあり、名古屋74ナンバーの継続は断念することになりますが、解体されるよりはまだマシと思いそのクルーコレクターの方に譲渡することにしました。


▲「マニア」は勿体ないと物言いをつけがちですが、ちょっと昔の「エモいクルマ」が解体に回されるのにはやむにやまれぬ事情があるのでしょう

実はこの原稿を書いてる時点で車検切れまで一週間を切っています。本当に最後の最後まであらゆる手を尽くしたと思っています。桜の散り際、20年以上も手元にあったクルマがなくなるなんとも物悲しいものです。

[ライター・カメラ/鈴木 修一郎]

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